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エースに会いました。




「ちょっと翔陽、なんで隠れるのよ」

「だ、だって……」

「お前ら、こんなとこで何してんの?」

「!あっ、えっと」

「お疲れ様です、菅原先輩」

「おー、お疲れ。旭、この前入った一年の日向と影山。で、マネージャーのなまえちゃん」

「「ちわっす!」」

「おース。マネも増えたんだな、良かった」

「…どうも」

「今年何人?」

「なまえちゃん入れて五人。多くはないけど、皆有望株だよ。マネも優秀だし」

「そうかぁ、がんばれよ」

「えっ、一緒にがんばらないんですか?」

「!」

「おれエースになりたいから、本物のエース、生で見たいです!」

「……悪い。俺は、エースじゃないよ」

「「??」」

「旭……」

「東峰先輩、やっぱり何か問題があるみたいですね」

「……」

「…よくわかんないスけど、ケガとかですか?」

「いや、元気」

「じゃあ何か、戻れない理由とかが?」

「いや…外部的な要因があるとかじゃないんだ。あいつが、バレーを嫌いになっちゃったかもしれないのが、問題なんだ」

「えええ!?あんなにおっきくてエースって呼ばれて、なんで…」

「…旭はウチでは一番デカかったしパワーもあって、苦しい場面でも難しいボールでも決めてくれるから、皆あいつをエースと思ってて、でも……俺は、あいつに頼りすぎた」

「潰されたんですか?試合で」

「……もしかして、伊達工業高校、ですか」

「!!」

「ダテコウギョウ…?」

「西谷先輩の言葉や、先輩達の様子を見て気になって…少し調べたんです。先輩達が引っ掛かっているのって、伊達工と戦って負けた三月の県民大会ですよね?」

「……ああ。そうだよ。その試合で、旭のスパイクは徹底的にブロックに止められてさ」

「!?えっ…そっ…」

「それだけ?って思うだろ」

「!!あっいやっ、ブロックされるの凄く凄く凄く嫌なの凄くわかりますっ!!けど…それでバレー嫌いになったりは…」

「…東峰先輩はエースですから、マークされるのは当然といえば当然です。でも、伊達工のブロックは鉄壁と呼ばれるほどの守備力…あの試合、相当苦戦したんでしょうね」

「…旭がサーブでもブロックでも狙われるっていうのはいつもの事と言えばそうなんだけど、あの時はそれがとにかく徹底的で、こっちは何も出来なくて……旭は、人一倍責任を感じちゃう性格だから…」

「自分のせいで負けたと思ってる、ってことですか…」

「ああ……、!!っていうか、お前ら、急がないと部活始まるぞ!」

「!!」

「俺もすぐ行くから、お前らも早く戻って準備しろよ」

「ハイ!」

「ウッス」

「……」

「…ほら!なまえも、早く行きな?」

「……、はい。失礼します」










翌日も、エースに会いました。


「あの、菅原先輩」
「ん?どした、なまえちゃん?」
「……今日の昼休みも、翔陽達と東峰先輩に会ってきました」
「!」
「東峰先輩、あの試合が結構なトラウマになってるみたいでした」
「…ああ…だろうな」
「……でも、大丈夫だと思います」
「え?」
「あの影山でさえ、烏野のおかげで中学からのトラウマを克服出来たんです。それに…東峰先輩は、バレーを嫌いになった風には見えませんでした。バレーがしたい、けれど怖い、ただそれが強く染み込んでいるだけです」
「……」
「きっと、それを克服出来たなら、また戻ってくれるはずです。だから、大丈夫ですよ、多分」
「……ありがとな、なまえちゃん」
「別に、お礼を言われるようなことはしてません」
「そうか、でも、ありがとな」
「……はい」


確証なんてない、気休めでしかないかもしれない。
けれど、私はそう信じているから。