ダブルブッキング

進撃+段戦W、逆ハー










「だからー、ナマエは俺達と行くんだって!」
「違います、僕達と行くんですー!」
「今夜メシ行こうって約束してたのは俺らだぜ?」
「俺達だって、今日の収録が終わってからの予定だったんだけど」
「あとから来た癖に、しゃしゃり出てくんなよバーカ!」
「そっちこそ!先に約束したのはこっちなんだよバーカ!」






目の前で言い争っているのは、私の出演しているドラマ『進撃の巨人』と『ダンボール戦機W』の共演者である男子陣。
番宣に出たバラエティの収録後、次々と私の楽屋にやってきたかと思えば、あれよあれよと言う間にこの状態だ。
因みに先程の台詞は、前から順にエレン、ヒロ、ジャン、バン、コニー、カズである。
他の男子陣は狭い楽屋に入り切れずに廊下で騒いでいるようだ。







「……どうしてこうなった」
「どうしてって、ナマエが予定をダブらせたんでしょ」
「眠かったからって、適当な返事ばっかりしてるからじゃないの」
「うう…」



自業自得よ、と、さらりと切り捨てたのは、私の隣でのんびり雑誌を読んでいるアニとジェシカ。
その向こうでは、ランとサシャがけらけらと一部始終を眺めていた。





「ほんと、ナマエはモテモテだよねー」
「ですよね。羨ましいですねー」
「うう…他人事だと思って…」



自分に被害がないからか、野次馬根性が人一倍強い彼女達は、至極楽しそうに見物している。
見てないで助けてよ、と言うと、二人揃っていい笑顔で断られた。








「でも、流石にこんなに騒いでたら、いい加減怒られますよねぇ」
「…私達の楽屋だから、怒られるのってもしかして私達?」
「でしょうね」
「……」
「……」





あれっ、二人ともなんでそこで急に黙るの?
ねえなんでそこで荷物纏めて帰り支度してるの?




「ちょ…ラン、サシャ?」
「じゃ、頑張ってね、ナマエ」
「応援してますからね!」



二人は変わらぬ笑顔でぽん、と私の肩を叩き、入り口に屯する集団をすり抜けて颯爽と帰っていった。
は、薄情者…!






「……アニ、ジェシカ、どうしよう私!」
「どうしようもないんじゃない?」
「そうね、諦めなさい」
「ひ、ひどい…!」




相変わらずの冷めた声でダブルパンチ。
確かに、撮影終わりの眠さに負けた自業自得かもしれないけれど、四人全員に見捨てられた私は結構傷付きました…








「なあナマエ、どうするんだ!?」
「俺達と一緒に行くよね?」
「えっ」




傷付いてる最中の私に、空気を読んでくれない男性陣が詰め寄る。
…いよいよ後に引けなくなってきた。
これはもう、腹をくくって必殺・THE・土下座を繰り出すしか…!














「……悪いけど、あんた達の出番はないよ」
「ナマエは今日、私達とディナーするんだから」
「へ…?」
「はあ!?」





一瞬でざわめく室内と廊下、そして私。
声のした背後を振り向くと、アニとジェシカが、私の肩を抱いて立っていた。







「何言ってんだよアニ!俺達が今夜約束してたの知ってるだろ?」
「ジェシカだって、今日の約束をした時に傍で聞いてたじゃないか」





私の両脇を陣取った彼女達に、エレンとバンが抗議する。
他の皆も、二人に続いて口々に不満を漏らした。
しかし、相手はアニとジェシカ。
当然数に怯むことも口を噤むことも無く、彼女らは凛と言葉を続けた。





「それが何よ?だからって今ナマエの取り合いをしても、仕方ないでしょう?」
「結局、あんた達はナマエを困らせてるだけじゃないの」
「う…っ」
「それは…」




多勢に無勢のこの状況で、ずばずばと言い連ねていく二人。
そもそも私のせいだという事は棚に上げたまま、つらつらと男性陣にお説教している。
…もしかして、私を守ってくれてる?







「そういう事だから、今日は解散よ」
「ナマエに嫌われたくなかったら、さっさと散った散った」
「くっ…!」
「卑怯な…!」




二人の怒涛の言葉責めに、男の子達は文句を言いながらもあっという間に帰っていった。
すごい、さすがお姉様方。
ごめんね皆、また今度それぞれ埋め合わせするから!







「えっと…ありがと、二人とも」
「全く、次はないよ。ナマエは本当、私達が居ないと駄目なんだから」
「ふふっ、私達の大事な妹だものね。あーんな下心丸出しの男共には、ナマエは勿体無いわ!」





ね、と顔を見合わせる二人をぱちくり交互に見詰めていると、くしゃり、二つの手が私の頭を撫でた。







「まあ、取り敢えず、いつものレストランでいい?」
「今日のディナーで、チャラにしてあげるわ」




にこりと微笑む二人に、私は一生付いていこうと胸に決めたのだった。


















(喜んで奢らせて頂きます!)