06.六日目










「ライナー!」



翌日、いつもの場所に訪れると、ライナーは普段通り木の幹に留まっていた。
小さなその姿を見付けた瞬間、なんだか安心した気持ちになる。
一日姿を見なかっただけで、何故かとても不安だったから。






「良かった、戻ってきてたんだ!昨日は会えなかったから、居なくなっちゃったんじゃないかって、心配したんだよ?」
「…ナマエ…」



嬉しさから駆け寄って捲し立てると、ライナーは私を一瞥し、直ぐに目を反らした。
…なんだか沈んでるみたい。
昨日、何かあったのかな?





「ライナー、昨日はどこに行ってたの?何かあった?」
「……」





思ったことをそのまま述べると、ライナーは此方を見向きもせず僅かな沈黙の後に、訓練所と一言呟いた。
何だか知らないが、異様に重苦しい空気を放っていて、居心地が悪い。
其れを振り払いたくて、努めて明るい声音で言った。




「訓練所って、うちの訓練所?」
「ああ。ナマエ達が訓練してる所を見た」
「え、そうなの?」




昨日は結局、ミカサに全く歯が立たずに終わっちゃったからなあ…
情けない所を見られたかもしれないと思うと、顔が燃えそうなくらい恥ずかしくなった。
変なとこ見てないよね?笑ってそう尋ねたが、ライナーはさっきからにこりともせず、神妙な顔付きで俯いている。
名を呼んでみたが、ちらと此方を見ただけで、返事はない。
しかし僅かに口を開閉させているところを見ると、何やら言葉に迷っているらしい。
彼の発言を黙って待っていると、ライナーは不意に此方を見上げ、口を開いた。











「俺と、同じ顔をした男が居たな」
「…え?」
「その男も、ライナーと呼ばれていた」





いつもより少し低く発された声に、表情が固まる。
何故だか無性に嫌な予感がして、暑さのせいでない汗が額を伝った。










「お前は、その男の代わりに、俺と話しているのか?」







がつん、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った気がした。
突如痛み出したこめかみと、音を立てて走り出す鼓動と、止まらない汗。
だのに身体は芯から冷えたように冷たくなっていた。






「ちがっ、違う、よ!」
「何が違うんだ?昨日の様子じゃ、お前はあの男が好きなんだろ?"人間のライナー"が」
「そ、れは…」





図星を突かれて、言葉が出なくなる。
確かに、私は人間のライナーが好きで、だからこそ蝉の貴方を見たときも、話しかけようと思ったのだけど、でも、でも。
そんな事ないと、違うと言いたかったけれど、ライナーの顔を見ると、何も言葉にならなかった。





「こんな俺を受け入れてくれて、仲良くなりたいと言ってくれて、嬉しかった。だけどお前は、俺と仲良くなりたかった訳じゃないんだな」
「ち、が…っ」




違う。違うの。
私に口を挟ませまいと、ライナーは言葉を続ける。
その小さな唇から紡がれるのは、私への失望と、彼の優しさだ。
眉を歪ませて話す彼に、私はついに顔を見ることも出来なくなった。





「それでも、俺は楽しかった。ありがとう」
「っらい、な、」
「じゃあな、ナマエ」






これで最後だ。
そう残して、ライナーは空へと羽ばたいて去ってしまった。






「…なん、で…っ!」














love for a week 6/7



(結局、私は何を求めていたんだろう)