11.春奈ちゃんのお誘い





「次の日曜日?」
「はい!予定、空いてますか?」




雷門サッカー部に入って数日。
マネージャーの仕事にも慣れてきて、ちょっとだけ速くなったボール磨きに精を出していると、新聞部スタイルな春奈ちゃんが手帳片手に訊いてきた。




「日曜日は…うん、特に予定は無い、かなあ」
「良かった!じゃあ、一緒にお買い物行きませんか?」
「お買い物?」
「はい!秋先輩や夏未先輩も一緒に、マネージャー親睦会、みたいな感じで!」



新しくできたアウトレット、行ってみたいんですよー!と、うきうきで話す春奈ちゃん。
皆でお出掛け…うん、いいなあ。
春奈ちゃんと秋ちゃんと夏未ちゃんと……ん?



「夏未ちゃんも一緒って、よく誘えたねえ」
「あ、いえ、まだ誘ってないです」
「へ?」
「だって私が言っても、夏未先輩、絶対に来てくれないと思いますもん」




だから、なまえ先輩からお誘いお願いします!


超絶可愛い笑顔でお願いされた私は、断ることなんて出来なかった。



















こん、こん。

以前も一度開いた、重そうなドアをノックする。
なんか緊張するなあ、ここ来るの。
学校内とは思えない雰囲気なんだもん。
しかし、中に居るのはやはり見知った人物で、どうぞ、と彼女の声が扉越しに聞こえた。




「し、失礼します」
「あら、なまえさん?」
「こんにちは、夏未ちゃん」




扉を開くと、見慣れた彼女が此方を振り向き微笑んだ。
それに少し緊張が緩んで、私も微笑み返す。
どうしたの、と問う夏未ちゃんの元へ近寄って、早速本題を切り出した。



「あの、いきなりなんだけど、日曜日の予定、空いてる?」
「日曜日?…ええ、空いているけど…」
「じゃあ、もし良かったら、一緒にお買い物行かない?」
「…お買い物…?」


少し戸惑った様子を見せた夏未ちゃん。
こういうのは苦手そうだから、断られちゃうかな…
いや、押せばなんとかなる!かもしれない。



「あ、秋ちゃんと春奈ちゃんも一緒なんだけどね、夏未ちゃんも来てくれたら嬉しいなって、」
「いいわ」
「え!」



え、いいの?ほんとに?
微笑む夏未ちゃんからあっさり了承を得て、私の方が戸惑ってしまった。



「貴女から誘っておいて、何を驚いているのよ」
「え、いや、だって…皆でお出掛けって、なんか苦手そうかなって思ったから…」
「そうね、確かに、どちらかといえば苦手だわ」



あ、やっぱりそうだったんだ。
口にはしないけど、内心でこそりと呟いた。
夏未ちゃんってなんだか、群れるより一匹狼なイメージが強いもん。
ツンデレだし。




「ただ、たまにはいいかなって思ったのよ。なまえさんの事も、もっと知りたいし」
「え…!」


なんか今すごい落とし文句聞こえた。
嬉しいやら恥ずかしいやらで、言葉という言葉が出ない。
しかし、当の本人は然程気にしていない様子で、待ち合わせはいつかしら、とにこりと訊いた。



「あ、えっと、日曜日の朝…10時に、駅前で…」
「分かったわ。楽しみにしてるわね」



夏未ちゃんってこんなに素直なお姉さん系だったのか。
今までのツンデレイメージと少し違う彼女の一面に、有頂天で部屋を後にした。