08.彼のいいところ





翌日の朝、守君が早速入部届けを持ってきた。



「なまえ、早く早く!」
「ちょ、そんな急かさないで、字間違える」
「円堂…慌てなくても今書いてるだろ」


書いている横で、私の手元を覗きながら忙しなく足踏みする守君。
早く提出しに行きたくて仕方無いようで、お供に(半ば無理矢理)連れてきたらしい風丸くんに諌められる。


「でも、なまえちゃんがマネージャーに入ってくれるなんて、嬉しいわ」
「だよな!一緒にサッカーできる仲間が増えて、俺も嬉しいぜ」



端で見ていた秋ちゃんが、にこにこしながら言うと、私が返事をする前に守君が嬉々として答えた。
…あれ、ニュアンスがなんかおかしくない?



「いや、マネージャーはサッカーしないでしょ…しないでしょ?」
「ああ、しないな」
「でもマネージャーは選手をサポートしてくれてるだろ?ボールを蹴らなくても一緒に戦ってくれてるんだから、同じだろ」


一瞬きょとんとして真顔で言う守君に、秋ちゃんと風丸君とで顔を見合わせる。
守君らしいな、なんて思って、三人でくすりと笑った。


「な、なんだよ、俺変なこと言ったか?」
「別に何でもないよ、ね」
「ああ、何でもないさ」
「ふふっ、そうね」
「うー…」



なんだよ教えてくれよ、と不服そうな守君に、私は手元の紙を差し出した。



「そんな事より守君、これ、書いたけど」
「あ!入部届、書けたのか?」
「うん、全部書けたよ」
「サンキュー!じゃあ、提出してくるな!」
「ありがと、お願いします」
「おう、行ってくる!」



ころっと表情を変えた守君は、入部届を手に、嬉しそうに走っていった。





「…単純っていうかなんていうか…」
「昔から、目の前のひとつしか見えないんだよなあ」
「でも、それが円堂君の良いところだわ」



また三人で顔を合わせ、くすりと微笑む。
ああいう真っ直ぐで純粋なところが、人を惹き付ける魅力なんだなあ、と実感した。
今まで画面の向こうにだけ見ていた魅力が、こうやって直接触れ合う事で実感として見えてくる。
それがすごく素敵だと思えて、一人笑みを深めた。
皆のそういうところ、もっと見たいなあ。
早く放課後が来ないかな、なんて、更に楽しみになった。