05.咲く花の役目




「…お姉ちゃん、なんでここに…?」



一頻り泣いて落ち着いたのか、イヴは私から離れると、私の手をきゅっと握って言った。





「うーん、お姉ちゃんにもよく解んないけど、多分イヴと同じじゃないかな?」
「…私、美術館にいたら、いつの間にか誰も居なくなっちゃって…それで、大きなお魚の絵から階段を降りてきたの」
「魚の絵?」



聞き返すと、一階の床にあった大きな絵だよ。と、イヴ。
あれ?私の時は、受付の裏に階段が出来てて…其処を降りてきたんだけど。
まあ、この状況だ、何が起こったって不思議じゃあないか。






「あ…そうだ」


突然イヴが、思い出したように呟いて歩き出した。
どうしたの?と、手を引かれるままに付いていくと、その先には水色の花瓶がひとつ。
イヴが青い薔薇を取り出して、その花瓶に活ける。
すると、花弁が落ちて萎びていた薔薇は、驚異的な速さで花弁が生え、みるみる内に満開の花が咲いた。





「な、何これ」
「命の薔薇だよ」
「へ?」



命の薔薇?…何それ。
訳が解らずに訊ねると、この薔薇は私達の命と同じなのだと言われた。
薔薇の花弁と私達の命はリンクしている。
花弁が一枚散るごとに、まるで命を削られるように体に痛みが走るのだと。
そして、花弁が全て落ちた時は、きっと、命も朽ちる。





「…看板に、書いてたの」


青い薔薇と赤い薔薇を挿し換えながら、最後にそう付け加える。
瞬時に満開になった赤い薔薇を見ながら、へえ、と軽く相槌を打った。
薔薇とか、命とか言われても、そんな非現実的な…って感じで。
なんかよく解んないなあ。






「お姉ちゃんの薔薇も、活ける?」
「私の薔薇…?」




首を傾げると、ちょん、とイヴが胸元を指差した。
…あ、そういえば。




「さっきの白薔薇…」
「それが、お姉ちゃんの薔薇…だと思う」



私の薔薇?
…私の、命ってこと?





「こんな普通の薔薇が…?」



何処からどう見ても、普通の綺麗な白い薔薇。
これが私の命なんて…






「……」(うずうず)
「どうしたの?お姉ちゃん」
「…えい」
「!!」







ぶちっ









「いったあああああああ!!」



痛い!何今の!?

興味本意で花弁を一枚毟ってみると、全身に鈍い痛みが走った。




「……何してるの、お姉ちゃん」
「いや、その、つい出来心で…えへ」



だ、だって、いきなりそんなの信じられないし!
つい試してみたくなっちゃったんだもん!


心底呆れた目で私を見て、イヴは私の薔薇を花瓶に活けた。




「おお…」


活けた瞬間、薔薇が回復すると同時に、体に残っていた痛みも引いていく。




「すご…」
「これで大丈夫だよ、もう絶対そんな事しないでね?」
「はい…」



イヴに渡された薔薇を、もう一度胸元に挿す。
落とさないようにさっきよりしっかり結び付けて、イヴの手を取った。




「じゃあ、取り敢えず行こうか」
「…うん」


イヴの手をしっかりと握って、二人で先へと歩き出した。