06.憧れの提案




「風丸君、おまたせ」


制服を着替え、夏未ちゃんに諸々のお礼を言ってから扉を開けると、風丸君は窓の外を眺めていた。
振り向くその仕草も素敵だな、とか考えて、またどきどきしながらも頑張って話し掛けた。




「えっと…付き合ってくれてありがとう。部活もあるのに、ごめんね」
「いや、構わないさ。その制服も、似合ってるな」
「へ…っ」

さらっとそんな事を言う彼に、私はぼんっと赤くなる。
爽やかに笑い掛けてくれる風丸君は、やっぱり格好良い。
そんな事ばかり考えながら、また風丸君の隣を歩いた。






「じゃあ、俺は部活行くけど…みょうじはどうするんだ?」
「え?」

下駄箱まで降りて、靴を履き替えながら問われる。
どうするって…普通に帰ろうかと思ってたんだけど。
私がその旨を伝える前に、風丸君が口を開いた。




「円堂の家までの帰り道、解るのか?」
「…あ、」


そういえば私、行き道は守君と話しながら来たから、あまり覚えてない、かも…




「言われてみれば、解んない、かも…」


他の事に気を取られ過ぎて、それは盲点だった。
ううん、仕方ない、部活終わるの待って、守君と一緒に帰ろう。
それを告げると、風丸君はひとつ、嬉しい提案をしてくれた。




「それじゃあ…もし良かったら、サッカー部、見に来ないか?」
「え…いいの?」
「ああ、部活が終わるまで、暇だろ。それに、みょうじの居た世界じゃ、俺達の世界がゲームとかアニメとかになってるんだろ?興味ないか?」
「……興味、ある」



そりゃあ、ね。
超次元サッカー、興味ない訳がない。
そう言うと風丸君は、くすくす笑いながら、グラウンドの方を指差した。



「よし、決まりだな。行こうぜ」
「…うんっ」


















「わ、本当に雷門サッカー部だ」


大きなグラウンドでボールを追い掛ける男子達を見て、思わず声が漏れる。
うわ、本当に、本当に、雷門サッカー部だよ。
守君は勿論、豪炎寺や染岡、マックスとか、あああ鬼道さんまで!
凄いよ、やばいよ、ほんとにイナイレだああぁ…
風丸君の後ろをのろのろ歩きながら、かなり興奮している。
そして多分にやけている。
叫ばないだけ偉いと思う、私。





「あっ、風丸!なまえ!」


私達に気付いた守君が、此方へ手を振って駆け寄ってきた。



「ありがとな、風丸」
「いや、いいよ。それより、みょうじがベンチに居ても構わないよな」
「ああ!もしかしてなまえ、サッカー部に入ってくれるのか?」
「馬鹿、違う。お前が居なきゃ、みょうじが道解らなくて帰れないだろ」
「あ、そっか」
「うん、だから…」
「ああ、見学も大歓迎だぜ!」


にかっと笑う守君。
釣られて私も笑みが零れ、風丸君もふっと微笑む。
二人はベンチに居るマネージャー達に声を掛け、私にも笑顔を振り撒いてから練習に戻っていった。
男の子に言うのもなんだけど可愛い奴らだ、とか思いながらベンチまで歩いていると、前方から可愛らしい声を上げながら、駆け寄ってくる少女の姿が見えた。






「あの、みょうじなまえさん、ですよね!」
「え、あ、はい」


わ、春奈ちゃんだ、本物の春奈ちゃんだ。可愛い!
ていうか、私の名前もう知ってくれてるし。
きっと守君が話したんだろうな。



「私、一年の音無春奈と言います!」
「よろしく、春奈ちゃん。もう知ってくれてるみたいだけど、私はみょうじなまえ。守君の従姉妹なの」


従姉妹なの、をさらっと強調。
いくらイナイレ主要キャラ相手でも、やたらめたら本当の事言う訳にいかないし。
変に思われる前に、この設定を定着させないとね。
我ながら良い作戦だ、と内心自賛しながら春奈ちゃんと握手。
そして手を握ったまま、春奈ちゃんは真剣な眼差しで訊ねた。














「あ、あの、みょうじ先輩は、異世界から来たって、本当なんですか?」




…守君、それもう話したんだ。