05.憧れの隣



初めに言った通り、私は風丸君が大好きだ。
顔を見る度にきゅんきゅんするし、一日の原動力にもなる。
愛してるよおお、なんて、大層気色悪く叫んだりもしてた。
しかしそれは、テレビやゲームの中の風丸君に対して。
実際目の前にしてみると、きゅんきゅんどころではなかった。








どきどきどきどきどきどき。

一歩早く隣を歩く彼を、横目に見る。
現在、私は風丸君と並んで、三階への階段を登っている。
守君の代わりに学校内部を簡単に案内して貰い、現在夏未ちゃんの部屋へ案内して貰っているからなのだが、如何せん会話が続かない。
人見知りというのもあるけれど、きっと相手が風丸君だからだと思う。
例えるなら、憧れの芸能人に会った時のような。
嬉しくて、話したいんだけど、緊張して何も言えない、みたいな。
実際、昨日のお礼だけ言って、その後は殆ど無言。
うう、変な奴と思われてないかなあ…






「みょうじ、着いたぞ」
「ふえ、あ、はいっ!」


考え込んでしまったせいで、噛んでしまった。
ううう、更に醜態を晒してしまった…
密かに凹む私を知ってか知らずか、風丸君は気にも止めない様子で、立ち止まった目の前にある扉をノックした。



「入って」


凛とした声が、扉の向こうから聞こえた。
それを合図に、風丸君はその大きな扉を開いて、私を中へ促す。
此処で待ってるから、と言ってくれた風丸君にお礼を述べ、なるべく早く終わらせなくちゃと思いながら足を踏み出した。











「あなたがみょうじさんね」


扉の間をすり抜けると、私の名を呼ぶ、夏未ちゃんが其所に居た。



「初めまして、私は雷門夏未。よろしく」
「よ、よろしくっ」




うわー、本物の夏未嬢だ。
可愛い。超可愛い。
髪さらさら、肌も綺麗、とにかく可愛い。
そんな事を考えながら、簡単にお互い自己紹介。
夏未ちゃん、と呼びたかったので交渉してみると、なんとそれだけでなく、私を名前で呼んでくれる事も了承してくれた。
殆ど名字でしか呼ばない夏未ちゃんが、少し照れながらなまえさん、と呼んでくれる。なんて至福。
私があんまりにやにやするから恥ずかしくなったのか、それとも気持ち悪かったのかは解らないが(出来れば前者だと嬉しい)、夏未ちゃんは真っ赤になりながら、慌てて話題を変えた。




「そ、それじゃあ早速だけど、制服を合わせてみましょうか」
「あ、うん」
「一応、サイズは全て揃えてあるから。あなたは…これくらいかしらね」


机の脇に準備してあったハンガーラックから、制服を一着手に取り、私に差し出す。
即席らしい簡単な試着室に入り、このサイズ入んなかったらどうしよう、と珍しく女の子らしい思考がよぎった。