Welcome to JOJO's world!

※トリップ









目が覚めたそこは、見覚えのない部屋でした。





「……あれ?」


上体を起こして、キョロキョロと周囲を見渡す。
見覚えのないベッド、見覚えのない天井、見覚えのないテーブル、見覚えのないクローゼット。
いくら探してみても、私の記憶の中には欠片も見付からない、少しレトロなお洒落な洋室。

ベッドの上に座り込みながら、じんじんと痛む頭を抱えて、必死に昨夜の事を思い出す。
確か…昨日は友達と飲みに行った、んだよね?
一瞬、終電逃してホテルにでも泊まったのかと考えたけど、そんな筈は無い。
だって、いつもより飲んじゃって帰り道の足取りが覚束無かったのも、タクシーでなんとか家まで帰れたのも、着替えもせずにそのままベッドに突っ伏して寝たことも、しっかりと覚えているのだから。




「部屋、間違えたのかなあ?」


でも、うちのアパートにこんな間取りの部屋はないし、ボロい畳なんかどこにもないし……そもそも鍵を開けて入ってるんだし。

全く状況が読めずにぼけっとへたっていると、部屋の扉が開く音がした。
思わずびくっと肩を揺らし、そちらを見やる。
開けられた扉の向こうに立つ人物を見て、知らない部屋に居る事以上の衝撃が、私を襲った。






「…誰だテメーは」


高い背、筋肉質な身体、その身に纏う学生服。
ぎろりと此方を睨むその顔は、姿は、今まで紙の中に見ていたその人だった。





「じょ…承太郎……?」
「!」



私が口を開くとほぼ同時に、承太郎の眼光が鋭くなり、彼の背後に突如何かが現れた。

す、スタープラチナ…!?
え?なんで?なにこれ本物?
なんで承太郎が?
ていうかなんで私こんな所に?

混乱して自問を繰り返していると、いつの間にかさっきよりも近付いてきている承太郎。





「何者だ。なんでおれの部屋にいる?」



ああそうかここ承太郎の部屋なんだ、じゃあ本人が居たっておかしくないよね……
っていやいやいや!おかしいでしょ!?
なんで私承太郎の部屋にいるのっていうかそもそも承太郎って漫画のキャラクターなんだから実在する訳ないし…
で、でもこの人はどうみても承太郎にしか見えないし……
やだ、もしかして私まだ酔ってる?

余計にパニックになり、黙って彼を見詰めていると、承太郎はチッと舌打ちをしてスタープラチナを私の目の前に寄越した。
そして、スタープラチナは私に向かって腕を振りかぶり……って、



「ひゃっ!?」

向かってきた拳に、思わず頭を抱えて固まる。
が、いつまで経ってもやってこない予想していた衝撃に、恐る恐る目を開けた。




「こいつは見えるようだな」
「…へ?」
「スタンド使いか?」
「え、」


私へ降ろされたと思ったスタープラチナの腕はその胸元で組まれ、いつの間にか承太郎の元へと戻っていた。
どうやら今の攻撃(というより威嚇?)は、私にスタンドが見えるかどうかという確認だったらしい。
そっか、スタンド使いかどうか見極められるもんね。
残念ながら私はスタンド使いなんかじゃないけど、でも何にしろ私が怪しい奴なのには変わりないか…

承太郎は未だ此方を睨み私との間にスタンドを構えたまま、何故この部屋にいる、と問うた。
どうしよう、そんなこと言われたって、自分でも解んないのに!


「鍵は閉めてた筈だぜ。どうやって中に入った?」
「どうやって、って言われても…」
「スタンドか?」
「へ?」
「スタープラチナが見えるってことは、お前もスタンド使いだろ。DIOの差し金か?」
「はあ?何言って……って、あれ?」



そういえば、私、なんで、





「なんで、スタンドが見えるの……?」
「はあ?」




拍子抜けした承太郎を尻目に、私の思考は一人で回る。
スタンドって、スタンド使いにしか見えない…んだよね?
でも私、見えてるよね?
スタンド使いじゃないどころか、そもそもスタンドって実在しないよね?
あれ、そもそも承太郎も実在しないよね?


「……あ、」


二日酔いに痛む頭であれこれ考えに考え抜いて、ひとつの可能性が浮かんだ。
いや、可能性っていうか、有り得ない、普通なら有り得ないんだけど!
でも、今の状況はそうとしか説明がつかないんじゃ……











「……異世界トリップ?」
「はあ?」
「いやまさか、いやでも、いやだって…」
「さっきから一人でぶつぶつと…気味わりーな」

ふと呟いた承太郎に反応してそちらを向く、が、その顔を視界に捉えることはなかった。


「ぎにゃっ」
「取り敢えず、捕まえとくに越した事はねえか」



頭と腕を掴まれて、強制的に床に押さえ付けられる。
思わず変な悲鳴が出たけど、承太郎は気にせずに私を見下ろした。



「スタープラチナで捕らえているから、簡単には逃がさないぜ。まあ、見るからにひ弱そうだから、心配なさそうだな」
「…別に逃げないけど、痛い」



だから少しだけ緩めてほしい、と頼んだ。
多少加減はしているんだろうけど、ほっぺたがひしゃげて口の形が変わるほどのそれは、正に押し付ける、という感じだ。
しかし、承太郎はそれすらも無視して、何やら電話を掛け始めた。




「…ああ、おれだ。ちょっとこっちの部屋まで来てくれないか…ああ、ジジイを連れてきてくれ」



ん?ジジイ…って、もしかしてジョセフ?
ジョセフたちが来るってこと?
え、本物?本物?ほんとに!?
承太郎の言葉に、スタープラチナに押さえ込まれた痛みも一気に吹っ飛んだ。
だってだって、他の皆にも会えるってことでしょ!?
うわ、うわあ!
すごい、ジョセフとか花京院とかアブドゥルとかポルナレフとか!?
イギーはもう一緒なのかな?
そういえば、ここどの辺なんだろ?
ええと、確かこういうホテルに泊まってるのは……ああだめ分かんない!興奮して思い出せないや!







独りテンション急上昇でにやにやしている私は、それを見た承太郎が冷めた目をしてドン引いている事に、到底気付く訳もなかった。














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(うっふふ皆のスタンドも見えるかなあうふふふ)
(……なんだこの気持ちワリィ女は…)