レディリリーに休息を

皐月様妹主。シスコン。
最終回のあの辺。









「姉様、どうしたの、その髪」


帰ってきた私を出迎えてくれた皐月姉様に、私が発した第一声はそれだった。





「なまえ、帰ってきたら先ず、ただいま、だろう?」
「あ、はい。ただいま、姉様。で、その髪、一体どうしたの?」
「……切った」
「切ったのは見ればわかります。どうして急にそんなに短くしたの?」


目を丸くして問い掛け続ける私を見て、姉様がはあ、と溜め息を吐く。
そんな面倒そうな顔しなくても……だってね、買い物から帰ってきて姉様の髪がばっさり短くなっていたら、普通驚きます。普通。



「……似合わないか?」
「まさか!似合います!とても素敵!ていうか、姉様に似合わないものなんてないもの!」
「ふ…そうか、ありがとう」
「皐月姉様は、格好良くて可愛くて美しくて、何でも似合うもの!バケツ被っても素敵です!」
「それは褒められている…のか…?」
「すごく褒めてます!まあそんなもの被らせないけどね!それくらいに姉様が素敵だという比喩で……ああ、いえ、そうじゃなくて。私、髪を切るなんて聞いてません。その上そんなにばっさりと切るなんて!私が一日出掛けている間に、何かあったの?」
「いや、何かあったという訳では…」
「まさか失恋!?」
「なぜそうなる」
「違いますよねー。じゃあ、どうして?イメチェン?」
「……まあ、そんなところだ」


肩より短く切り揃えられた髪をまじまじと眺めながら、姉様の周りをくるくる回る。
そんな私を横目に追って、姉様はさらりと髪を掻き上げた。




「やっと、全て終わったからな。区切りを付けて、心機一転…といったところかな」


そう言った皐月姉様の顔は、とても優しく穏やかに微笑んでいた。
……最近、姉様はなんとなく明るくなった気がする。
生命戦維との戦いが終わってから(厳密には、もう少し前かもしれない)は、特に。
雰囲気が柔らかくなった、というか、笑顔が増えたのかしら。
きっと流子ちゃんのお陰ね、と、最近できた双子の妹を思い浮かべた。
以前の凛々しい姉様も美しかったけれど、今の姉様もとても素敵だ。


「心機一転、かあ。うん、いいですね。なんだか、姉様らしいかも」
「そうか?」
「ええ……それにしても、本当によく似合ってるわ」
「…そう、か?」


小さくひとつ咳払いをして、姉様は気恥ずかしそうに髪を撫でる。
あ、ちょっと照れてる。レアだわ。
ほんのり頬を赤らめて私から目を逸らす姉様は、とても女の子らしく見えた。
うなじに触れる毛先がこそばゆいのか、それとも慣れない軽さが落ち着かないのか、先程から頻りに首元を触っている。
そわそわしている姉様もレアで、滅多に見られるものじゃないから、つい凝視してしまう。
本当、なんだか今日は、やけにかわいいぞ、姉様。





「そうだわ!姉様、今から一緒にお出掛けしましょ!」
「出掛けるって、何処に?」
「決まってるでしょう、お洋服を買いに行くのよ!」
「ふ、服…?」
「せっかく髪型を変えて可愛くなったんだから、お洋服も可愛いものを着なくちゃ!」
「わざわざ買わずとも、服ならいくらでもあるだろう?」
「もう、姉様ったら分かってないわ!女の子はね、髪型ひとつ変えると、似合う服も変わってくるものなのよ?」


姉様の持っている服はとても素敵だけれど、どちらかと言えば格好良い部類の服ばかりなのだ。
今の髪型は長髪の時よりも可愛い印象を受けるから、もっとガーリーな服を着ても良いと思うの。
ふわふわの女の子らしい服だって、今の姉様ならきっと似合うわ!



「だから、その可愛らしいショートカットに似合う、可愛らしい服を見立てなくっちゃね!」
「いや、それは別に…」
「そうだ、乃音ちゃんにも連絡して、一緒に見てもらいましょ!」
「い、いい!やめろ!」


乃音ちゃんに電話を掛けようとすると、呼ばなくていいと姉様に全力で止められた。
押し切ろうかと思ったけれど、頬を赤くしてやめてくれと懇願する姉様があんまり可愛いから、電話するのはやめておいた。
まあメールはこっそり送っちゃったけどね!



「何もそこまでしなくても…」
「ダメよ姉様。心機一転、なのでしょう?だったら、お洋服も新しいものを着なくちゃ!」
「だが…」
「流子ちゃんとマコちゃんと、姉様と私、四人でデートするんでしょう?デートには、可愛くお洒落していくものよ」
「う……、そ…そうか。そう、だな…?」
「そうなんです!だから、お買い物に行きましょう?」
「……、わかった。なまえがそこまで言うのなら、行こう」
「うふふ、私が姉様に一番似合う服をお探しするわ!」
「ああ。頼む」


揃を呼んで車の手配をする姉様の後ろで、そっと携帯を取り出す。
今から行くわ、との乃音ちゃんのメールを確認して、にまりと微笑んだ。
さて、素敵な姉様に見劣りしない、素敵な服を選ぶには、どのお店に入るべきかしら。
デートと言う名の女子会には、フェミニンなものがいい?それともコンサバ?モード系?カジュアルなほうがいいかしら?
スカート丈はミニ?ロング?パンツで大人っぽくしてもいいわね!
そう考えている間にも、姉様はローブを脱いで着替えを進めている。
ああ、待って姉様、まだ乃音ちゃんが来ていないのです!




「では、皐月姉様、私もすぐに準備するわね!」


乃音ちゃんが来るまでの時間稼ぎのため、私は準備と称して自室に籠城することに決めたのだった。
















(来たわよーなまえちゃん……って、皐月ちゃん!?どうしたのその髪!かわいい!)
(でしょう?姉様はいつでも可愛いけどね!)
(よ、呼ぶなと言ったのに…!)