太陽は深海へ沈んだ

※死ねた、ネタバレ有り












「ピアーズ、大丈夫?」




彼の肩を抱いて、ゆっくりと壁に凭れさせる。
変わり果てた彼の右腕を見ると、幾つもの傷口から流れた赤が指先まで伝っていた。



「もう少し…もう少しだから、頑張って!」



不規則に呼吸をする彼の手を握り、大丈夫だよ、と声を掛ける。
そう、きっと大丈夫。
大丈夫だから。



「…ナマエ…」
「大丈夫、私が必ず助ける。元の体に治してみせるから」



苦しそうに息を荒くして、尚、口を動かそうとする彼を制する。
怪我が酷いんだから、お願い、無理しないで。






「クリス!早く、早く動かして!」
「解ってる。もう少しだ」



思わず、脱出装置を調べているクリス隊長を急かす。
焦ったって仕方無い事は解っているけど、ピアーズの辛そうな姿を見ていると、そう口に出さずにはいられなかった。




「…ナマエ、」
「喋らないで、傷に響くわ」
「いや…どうしても、伝えたいんだ」
「…ピアーズ、もう少しだから、」
「今まで、君と…共に居られて、幸せだった」
「もう少し、頑張って、ねえ」
「どんな時も…俺の隣に、ずっと居てくれて…幸せだった」
「お願い、ピアーズ、やめて」



苦しそうに肩を揺らしながら、ピアーズはそれでも言葉を止めない。
お願い、お願いだから、今、そんな事言わないで。
だって、そんなのまるで、








「最期に、君を守れて良かった」
「…っピアーズ!」



侵食の進んでしまった顔を歪めながら微笑む彼を、ぎゅっと抱き締める。
やだ、やだよピアーズ、そんな事言わないで。





「最期だなんて言わないでよバカ…っそんな事、絶対させないんだから!」
「…ナマエ、」
「絶対一緒に生きて帰って、その腕を治すんだから!今までなんて言わないで、これからもずっと一緒に居るんだから!」




絶対に、どこにも行かない。行かせない。
あなたを、死なせたりしない。




「ありが…とう、ナマエ」
「…っ、」



ピアーズの左手が、力無く私の頬を撫でる。
ゆっくりと近付いた唇は、いやに優しく重ねられた。



「ピアーズ…」
「愛してる…ナマエ」「…っ私も、愛してる…」


もう一度、キスを落として、強く抱き締める。
クリスの叫んだ声を合図に、ピアーズの肩を抱えて、開いた脱出装置へ向かった。




「クリス、中から引っ張って」
「ああ。ピアーズ、もう少しだからな」
「……」




私がピアーズの肩を支え、クリスが中から引っ張り上げる。
あとは三人一緒に脱出装置に乗り込み、扉を閉めて脱出。
それだけだった。のに。













ドンッ




「え、」




突然の、背中への衝撃。
何が起きたのか考える暇もなく、目の前のクリスを巻き込んで倒れた。




「ピアーズ!?何をしてる!」


クリスの声で、ピアーズに背を押されたという事に気付く。
しかし振り向いた時には、既に其処には閉められた扉で壁が出来ていた。


扉の向こう側に、ピアーズを残して。






「っやだ!ピアーズ!?」
「ピアーズ開けろ、開けるんだ!」
「……」
「ピアーズ!!」
「っクソ、中の開閉スイッチは何処だ!?」




頑丈なシェルターの扉をどんどんと叩き、ガラス越しのピアーズに手を伸ばす。
いくら叫んでも叩いても、ピアーズの其れに重なる事はない。
代わりに、ピアーズの腕は脱出装置の射出レバーへと伸びていた。





「駄目よピアーズ、開けて!開けなさい!」
「……ごめんな」
「いや、いやだ…やめて…ピアーズ…っ」




お願い、ピアーズ、お願いだから。
貴方を置いて行きたくないの。
だから、私を置いて逝かないで。






「心から、愛してるよ、ナマエ」
「や、だ…っやだ、ピアーズ!ピアーズ!!」





レバーに手を掛けたピアーズが微笑んだ瞬間、彼の姿は私から遠ざかっていった。








「っいやあああぁあああぁあ!!!」


























(貴方を犠牲にした未来なんて、私には意味がないのに)