本当は、愛してるのに。

ミカサ(+ジャン&ライナー)











「ミカサああああああ!」
「……ナマエ?」




だだだだだだだだっ、

廊下を駆ける音と、私を呼ぶ彼女の声が背後に響く。
後ろを振り向く前に、涙を浮かべたナマエが勢いよく抱き着いてきた。




「どうしたの?」
「ミカサ!助けて!」


横からしがみつくナマエの背中を撫でてやると、ナマエは此方を見上げ、私に助けを請うた。
ああ、またか、と溜め息を吐いて、ナマエの頭を撫でる。
彼女を追ってくるかのように…いや、追ってきた二つの足音が聞こえて、そちらへ視線を向けた。







「ナマエ!どっちなんだ!?」
「今日こそちゃんと選んでくれ!」
「…!」
「ひゃっ、もう来たぁ…」




姿を現した二匹の野獣を睨み、ナマエを私の背に庇う。
私に気付いたからか、奴等は頬を引き攣らせながらゆっくりと足を止めた。




「げっ、またかよ…」
「み、ミカサ…!」
「……ライナー、ジャン。ナマエに何をしたの?」
「何って、別に…」
「ナマエが泣いている。何もしていない訳がない」
「な、泣いてんのか…?」
「……ぐすっ」
「「!!」」


涙目のナマエを見て、慌てふためいたジャンがナマエに近付こうとしたから、鳩尾に突きを食らわせておいた。







「どうせ、またナマエに言い寄って困らせていたんでしょう」
「困らせたつもりはない。ただ、好きだ付き合ってくれって告白してるだけだ」
「そ、そうだっ、どっちの方が良いのかって聞いただけ、だ…」
「……それをナマエが嫌がっているのが解らない?」



何故か自信満々に言うライナーと、恐る恐る呟くジャン。
先程よりきつく睨むと、二人は揃ってばつが悪そうに目を逸らした。
解っているのなら、始めからしなければ良いのに。




「生憎、ナマエはどちらも相手にしない」
「なっ…そんな事ねえよな、ナマエ?」
「ジャンはともかく、俺を選んでくれるよな?」
「えっ!?えっと…私は、どちらかなんて選べないし……うう…」
「ナマエ、そんなもの選ばなくて良い。ジャンにもライナーにも構う必要はない」
「そもそも、なんでミカサが出張るんだ。ミカサには関係無いだろ」
「そうだぜ、俺らはナマエに言ってるんだし」
「……関係無くなんてない」




寧ろ、大いに関係ある。

怪訝に私を見る二人を睨んで、はっきりと言い切る。
私の後ろで戸惑うナマエを二人に背を向けるように抱き寄せると、更に強く断言した。








「ナマエは、私の恋人だから」
「「……はぁ!?」」
「へ?」




驚愕に目を見開く二人から、同じく驚いているナマエを隠すように頭を撫でる。
私の腕の中で小さく狼狽する彼女に、心配しないでとの意を込めて抱き締める両腕に力を込めた。




「だから、ジャンにもライナーにも、出る幕はない」
「な…っそんなもん、信じられるかよ!」
「そうだ、女同士なんて…!」
「なら、証拠を見せる」




証拠という言葉に更に目を丸くするジャンとライナーを無視して、指先でナマエの顔を上げる。
そして、ちらりと二人の様子を確認してから、こつり、額を合わせた。




「み、みか…」
「大丈夫」



ナマエだけに聞こえるように囁くと、疾うに泣き止んでいたナマエが小さく頷いた。
暫く安心したように微笑むナマエと至近距離で見詰め合ってから、顔を上げてもう一度ぎゅっと抱き締める。
目線をナマエから逸らして前を向くと、男二人が目を見開いた真っ赤な間抜け面で此方を見ていた。




……そう、これが証拠。

貴方達から見れば、口付けでもしたかのように見えたでしょう?







「ナマエは私のものだから。ジャンにもライナーにも渡さない」
「な、な…っ!」
「マジかよ…」



そう言えば、赤かった顔は一辺に青くなり、揃ってふらりと膝を付いた。





「……ミカサにフラれナマエにもフラれ…更にミカサとナマエが恋人同士…もう訳分からん…」
「まさか、女に…しかもミカサに取られるなんて……信じないぞ、俺は信じない…」
「な…なんかブツブツ言い出した……」






なんか怖いよ、と私に縋るナマエの手を取って、彼等に背を向ける。


「行こう、ナマエ」
「え?で、でも…」
「いいから」



放置していいものかと、私と彼等を交互に見るナマエを引っ張って、足早にその場から離れた。














「ありがとう、ミカサ」

宿舎の見える場所まで来たところで、ナマエが口を開いた。
足を止めて振り返ると、ナマエは目線を逸らし、少し俯き加減にはにかんだ。




「で、でも、流石にあれは、その…」
「あれくらいしないと、ナマエに寄り付く虫は追い払えない」
「虫って……でも、有る事無い事っていうか、嘘ばっかり言い過ぎじゃないかな…」
「そんな事はない。寧ろ丁度良い牽制になる」
「もう…ミカサは過保護だなぁ」
「ああいうのが増えると、ナマエが困るから。それに、……」
「…?それに、なぁに?」




言葉の途中で口を閉ざした私に、ナマエが復唱して問う。
10センチ以上ある身長差の為、首を傾げる彼女は上目遣いで私を見上げていた。





「……私も、心配だから」
「ふふ、ありがとう。ミカサのそういうところ、大好きよ」
「っ……わ、たしも、ナマエが……、っ」





……ナマエが、好き。


途切れ途切れ呟くと、ナマエは嬉しそうに笑った。
親友だものね、と、満面の笑みで。
なんとなく切なくなって、部屋に着くまでナマエの手を離せなかった。













本当は、愛してるのに。


(伝わらないなら、せめて、あなたの隣に)