雑食系彼氏







私の彼氏、カズは、ヘタレだ。



「っ!?ちょっ、お、おいナマエ、手…っ」
「何よ、手繋いだくらいでテンパらないでよ」
「つつつつな…っ!」
「(ウブか)」





ヘタレで奥手で純情で臆病で、可愛い可愛い草食系彼氏。

……だったのに。











「ナマエ…好きだ…」
「……どうしてこうなった」


久し振りに会ったカズは、以前の草食っぷりは欠片も残っていなくて。
何故か服の趣味が変わって、何故か体格も良くなって、そして何故か積極性抜群の肉食系男子になっていた。




「か、カズ…?」
「逢いたかった、ナマエ…」
「カズ、どうしたの?」


さっきからずっと、後ろから私を抱き締めたまま離さないカズ。
なんか、好きだとか、会いたかったとか、やっと触れられたとか……以前のカズでは考えられない台詞ばかり呟いている。



「会えない間、ナマエの事ばかり考えてた。こうやって…ずっと触れたかった」
「カズ…」

そう言って貰えるのは凄く嬉しいんだけど。
やっぱり、なんか、こう、しっくり来ないっていうか……





「……カズらしくない」
「え?」


だって、前はもっとこう、初っていうか、不器用っていうか…こんな風に、直球ばんばん投げてくるタイプじゃなかったもん。
見た目だってこんなワイルド系じゃなかったし、こんなに筋肉も付いてなかったし……
今まで大変だったのは知ってるし、理解もしてるつもり、なんだけどね。




「……なんか、少し会わない内に変わったねぇ」
「そうか?」
「そうだよ。見掛けも中身も、前と変わった」
「…嫌いか?」
「嫌いじゃないけど…なんか、違和感」
「なんだよそれ」


俺だって色々あったんだよ、と笑うカズの声は、以前と変わらないまま。
けれど顔を見上げれば、以前よりも男らしくなってしまった彼がいた。
嫌いか、なんて、前のカズなら絶対訊かなかっただろうに。(というか訊く勇気なんてなかったはずだ)




「変わったんじゃなくて、強くなったんだよ。俺は」
「ふふ、そうかもね」


笑うその横顔には見たことの無い余裕や自信が浮かんでいて、少しだけ寂しく感じる。
……ううん、カズも成長したって事かな。
子供が自立し始めた親って、こんな気持ちなんだろうか。
下からじいっと見詰めていると、視線に気付いたカズが私を見下ろした。



「なんだよ?」
「んーん、別に…ただ、ホントに久し振りだなあって思って」
「そうだな……ごめんな、なかなか帰って来れなくて。寂しかったろ?」
「別に。居ても居なくても一緒だったけど」
「うわ、ひどい言われ様だな」


私の素っ気無い言葉にも、くつくつと余裕そうに笑う。
ああ、本当に変わったなあ。
今までなら、こんな冗談も冗談と捉えず本気で凹んじゃう子だったのに。
いちいち対処が面倒だったけど、あれはあれで可愛かったんだけどなあ。
ううん、もう完全に草食系は卒業しちゃったのかしら……?







「……好きよ、カズ」
「ナマエ…?」
「大好き、愛してる」



振り向いて正面から顔を合わせて、ちゅ、とキスを落とした。
何度も啄むように唇を合わせ、舌を差し込んで絡ませる。
軽いキスなら以前でもしていたけれど、こんな風に深く長く口づけるのは初めて。
息苦しくなる程に激しくしてみせると、呼吸の限界が来たのか、それとも単に恥ずかしくなったのか。カズは半ば無理やり私を引き剥がした。



「カズ?」
「…っやめ、ろ、照れる…!」


口元を押さえて、顔を背けるカズ。
あ、これ。これだ。
耳まで真っ赤にして私の言動にいちいち照れるところは、前と同じ。
奥手なカズの可愛いところ。



「カズかわいーい」
「っ馬鹿、かわいいのはお前だ!」
「へーえ?言うようになったじゃない。じゃあもっとキスする?」
「やっ…めろってば…!」


途端にへにゃりと小さくなって慌てふためく。
……なんだ、何にも変わってないんだ。
恥ずかしがりなところも、アプローチに弱いところも、私を好きでいてくれるところも。
何ひとつ、変わっていなかった。
見た目が変わったって、少し大人になったって、私の大好きなカズには変わりないんだもの、ね。





「大好きよ、カズ」



ヘタレで奥手で純情で臆病で、可愛い可愛い草食系彼氏だったカズ。
肉食系になっても、やっぱりヘタレな可愛いカズでした。















雑食彼氏



(キス以上も、してみる?)
(なっ、ななな何、言って…!)
(ああうん、やっぱこれこそカズだわ)