戦地に咲く赤い花になる

※夢主死ネタ、流血表現有り










ここは、数年前までは明るく活気のある街だった。
栄えた市場や温かい住人で溢れた、素敵な街。
しかし今となっては、巨人の侵入により建物は崩壊し、住人は一人も残ってなどいない。
以前の面影もなく崩れ荒らされた街の砂利道で、四肢を投げ出して仰向けに寝転がった。
見上げた眼前に広がるのは、薄暗い曇り空。






……あれ?
どうしたんだろう、私。


視界がおかしい。

鼓動がおかしい。

身体がおかしい。

痛覚がおかしい。






横たわったまま、うまく動かせない身体。
重い腕を腹の上へ乗せれば、どろりと生温かい液体と、不自然な窪みの感触。
じんじんと腹部から広がる激痛に顔を歪めた。

指先が僅かに触れるだけで刺すように痛む其処は、腹の肉が抉れ、左の脇腹が無くなっている。
先程の戦闘で、奇行種に食いつかれた時の傷だろう。
半ば無理矢理体を捻って奴のうなじを削いだものの、銜えられた部分を食い千切られてしまったらしい。
奇行種とはいえ巨人に噛み付かれるなんて、私もまだまだね。
こんな大怪我までして、足手纏いもいいところだわ。










「…しぬ、のかな…私」





呟いた声に生気はなく、自分の耳にすら届かない程小さく掠れていた。
喉を震わせたせいか、言葉と一緒に血も吐き出してしまう。
思いの外大量に溢れて、ああこれはもう無理だなと、まるで他人事のように考えた。












「ナマエ!」




私の名を呼ぶ声と、近くに降り立った足音が聞こえる。
愛しい人の声に目を開けると、柄にもなく泣きそうな顔で私を見下ろすリヴァイが居た。




「リ、ヴァイ…兵長…」
「喋るな、血が溢れる」
「でも…」
「でもじゃねえ、直ぐに手当てしてやるから黙ってろ」
「…だめだよ…」
「いいから黙ってろ!」
「っリヴァイ、もう、だめなの…わかるでしょ?こんなの、治らない…よ…」
「うるせえ、勝手に死ぬなんて、許さねえぞ…!」



マントを脱いで、私のお腹に巻き付けるリヴァイ。
ああ、血で汚れちゃうよ。
潔癖症の癖に、そんな事して。
だけどそんなの、応急措置にもならないよ?
言ってやろうと思ったけど、見上げたリヴァイの顔は、見た事もない程に情けなく歪んでいて。







「…どうしたの、リヴァイ」








人類最強のリヴァイ兵長が、どうして、泣いているの。



声を掛ければ、私の顔を見て、更に瞳を潤ませるリヴァイ。
まさかリヴァイがこんな事で泣くなんて思ってもみなくて、多大な驚愕と少しの焦り、そして何故だか嬉しさを感じた。






「リヴァイが、私のために泣いてる…嬉しい、なぁ」



茶化すように言えば、リヴァイがいつものように、馬鹿かお前は、なんて呟く。
しかし相変わらず処置の手を止めないリヴァイに、なんだかとても切なくなった。





「一人で死ぬなんて、許さねえ…っ命令だ、絶対に生きて帰れ」





……生きて帰れ…、か。
嬉しいよ。リヴァイ。
でもね、やっぱり無理だよ。


自分の体は、自分自身が一番よく解っている。
溢れる血は一向に止まらないし、抉れた腹部は麻痺して痛みすら感じないし、視界だってほら、もう。






「ごめんなさい、リヴァイ兵長…ナマエは、命令には…従え、ません…」






だって、解るんだもの。
自分の命が、今にも消えそうなこと。
霞んでしまった視界で、歪んでいるであろうリヴァイの顔を見上げた。


今、貴方はどんな顔をしてる?
まだ泣いている?
情けない顔でいる?
ダメだよ、そんな顔してちゃ。
貴方は、私達の希望なんだから。
いつだって毅然として、颯爽と刃を振るう……それが、私達の憧れる、人類最強のリヴァイ兵長なんだから。





「だから、生きて、リヴァイ…私の分、まで…」
「ナマエ…!!」



涙声で名前を呼ばれ、ぎゅう、と強く抱き締められる。
ああ、良かった。
リヴァイの腕の感触は、まだ判るよ。
大好きな、リヴァイの温度に包まれる感覚。
私を抱く身体が温かくて、私の頬を撫でる手の平は少し冷たくて…ああでも、今ばかりは、其れさえ温かいよ。




我が儘で、潔癖で、不器用で、甘えたがりで。
それでいて強くて、気高くて、凛々しくて、人類最強の貴方。
貴方を残して逝くのは心配だけど、きっと大丈夫ね。
今の貴方には、エルヴィンやエレン…沢山の仲間が居るもの。
大丈夫。私もずっと、傍に居るから。















ぱたり、













貴方の温もりを、最期に感じられて良かった。




















戦地に咲くい花になる



(ずっと愛してるよ、リヴァイ)