微笑むピューピル

※名前変換なし









「ねえ、アルミン。壁の外には、不思議なものがたくさんあるって、本当?」





訊ねると、アルミンは読書の手を止めて此方を向いた。



「本当らしいよ。機密文献には、壁の中では有り得ないような事が沢山書いてあるんだ」
「例えば?」
「そうだね…例えば、燃え盛る炎の水や、冷たい氷の大地、それから……」




まるで子供にお伽噺を聞かせるように、"不思議なもの"を語るアルミン。
穏やかに語るその声や表情には、少年らしい無邪気さが見えた。








…いつからだったか。
彼が、只の訓練兵仲間の少年に見えなくなったのは。


訓練兵として入ったばかりの頃、彼は周りより体力が無く、対人格闘や立体起動も人並みではあるものの、別段目立つものではなかった。
何をするにも控えめで、消極的だという印象だった。
しかし、身体能力に劣る分、座学ではいつもトップクラスで、その膨大な知識と鋭敏な観察眼による智力には驚かされた。
…今思えば、何かと目立つ二人の幼馴染の影に隠れていただけだったのかもしれない。
しかし、その(私から見れば)意外な一面に、興味を引かれた事も事実だった。
きっとその頃から、私は彼を特別視していたのだろう。


手振りを添えながら楽しそうに未開の地の話をしてくれるアルミンの隣に座る。
昔は遠目に追うだけだった幼顔を覗き込むように座ると、近付いた距離を意識でもしたのか、アルミンは少しだけ頬を桃色に染めた。





「アルミンは、それを見るために此処に来たの?」
「うーん、他にも理由はあるけど……壁の外に出たいと昔から思っていたのは、その為だよ」
「…その為に、調査兵団を目指すの?」



一瞬だけ見開いた彼の目は、宙をなぞるように伏せられる。
一呼吸置いてからまた此方に向いたアルミンに、少しどきりとした。





「…うん、そうだよ」




微笑む彼の目は、決意と迷いで揺れている。
けれど、とても綺麗だ。
人間味の溢れた、とても綺麗な笑顔だ。






「約束したんだ。いつか、壁の外を冒険をしようって。それを果たす為に、僕は強くなりたいんだ」





誰とは言わずとも、先程よりも優しい瞳がエレンとの約束だと語っていた。
彼にとっての一番は二人の幼馴染みで、きっと私がそこに入る隙などない。
それでもそこにいたいと思うのは、私にとっての一番が彼であるから。
そして、彼の二番目が、私だと知っているから。





「……その約束、私が居てもいい?」



そう問うと、アルミンは私の目を見詰めて、微笑んだ。






「勿論だよ」



先程よりも、瞳の優しさは控え目。
けれど、愛しそうに目を細めるその笑顔は、紛れもなく私だけに向ける笑顔だった。















微笑むピューピル


(貴方と一緒に居られるなら、隣で無くとも良いと思えるの)