わがままベルさん


「…あのさ、ベルトルト」
「何だい?」
「…ごはん、食べにくいんだけど」



夕食中、私の呼び掛けに此方を向き、こてんと首を傾げるベルトルト。
言ってる意味が解らないという様子で微笑む彼の左腕は、何故か私の右腕に絡まっていた。




「僕は食べにくくないけど…」
「そりゃあんたはね。右手塞がれてないもの。でも私は食べにくいから、離して」
「えー」
「スープ溢しちゃうでしょ」
「じゃあ僕が食べさせてあげるよ」
「いやそういう問題じゃなくて」


私の口元にスプーンを運ぼうとするベルトルトを制す。
向かいに座るライナーに目で助けを求めると、すまん、と唇が動いて視線を逸らされた。薄情者!
なんとか自力で離れてやろうと奮闘するも、ベルトルトの腕はびくともしない。
寧ろ一層締め付けるが如く、更に強く絡められた。




「…ベル、なんでそんなにくっつきたいの?」


問えば、


「今日の訓練はずっと別の班で、全然一緒に居られなかったから」


だって。
確かに、今日は特別演習だったから、一日中別行動だったけど。




「全然会えなくて、寂しかった」
「寂しかったって言っても…食事中くらい、手離してくれない?」
「やだ」
「邪魔なんだけど」
「じゃ…邪魔…!」
「あ」
「……やっちまったな」


ぼそりとライナーが呟く。
しまった、ほんとやっちまったよ。
慌てる私の隣で、涙目になるベルトルト。
気付いた時には既に遅く、頑なに掴んでいた私の腕も離して机に伏していた。
ああもう、こうなるとなかなか機嫌直らないのよね!





「ど…どうしよ、ライナー…」


小声で再度ライナーに助けを求めると、今度は呆れたように此方を向いた。
溜め息を吐くと、何やら私の方を指差す仕草。
全く通じなくて、思わずはあ?と言ってしまいたい衝動をぐっと抑える。
ライナーの手振りをじーっと見詰めて、考えて考えて考えて、やっと意図が伝わった。
そんなんで機嫌直るのかな、と疑いながら左手を伸ばす。
恐る恐るベルトルトの手を握ると、俯いて伏せていたベルトルトが勢い良く此方を見上げた。




「…右手に絡まれると邪魔だけど、こっちなら、いいよ」「ナマエ…!」


相変わらず涙目のまま、しかし先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべるベルトルト。
どうやら復活したようで、ベルトルトはぎゅっと手を握り返して食事を再開した。
にこにこの彼に胸を撫で下ろす。
さすが幼馴染み!と、救世主ライナーにパンを半分供えておいた。







わがままベルさん


(ナマエ、好き)
(ちょっ、ちゅーしにくんな馬鹿ベル!)