独占欲



「駄目だ」
「……へ?」




休日、ライナーにデートに誘われたから、とびっきりのお洒落をして上機嫌で出てきたのに、宿舎の前で待っていたライナーの第一声はそれだった。




「駄目って、何が?」
「駄目だ。もう全部駄目だ」
「はぁ?」


私の爪先から頭まで舐めるように見ながら、顔を押さえて駄目だこれは駄目だと呟き続けるライナー。
一体私の何が駄目だっていうんだ。
…いや、確かによく残念な子だとは言われるけど。頭が。
でも多分今はこれ関係ない。多分。…多分。

少し考えてライナーの目線を追っていると、もしや服装の事を言っているのでは、と気付いた。
確かに、今日は柄にもなくスカート穿いて、ブラウスも新調して、いつもと違う格好だけど。
髪だってクリスタに結って貰って、この間買った花の髪飾りもつけたけど。
クリスタやミーナ達に助言を貰って、精一杯のお洒落をしてきたんだけど。

……似合ってないって、可愛くないって、言いたい訳?



「ヤバい、ナマエ、これはマジで駄目だ」
「…駄目って何がよ」
「何って、その…服が…」


顔を覆いながら、ぼそぼそと呟くライナー。

やっぱり服か。
やっぱり、可愛くないって言いたいのか。
…結構、頑張ったんだけどな。





「…帰る」
「は?おいナマエ…」
「服が嫌なんでしょ?変な格好の女とは、歩きたくないってんでしょ」
「なっ、いや…」



慌てるライナーの言葉を無視して、くるりと踵を返す。
早足に宿舎の中へ戻ろうとすると、腕を掴まれ阻まれた。
やめて離して、私は今から部屋に戻って女神に慰めて貰うんだから。
ぐっと腕に力を入れるけど、流石にライナー相手じゃ振り解けない。
何度か引っ張ってもびくともせしなくて、諦めて振り返れば、彼は珍しく焦った様子だった。



「馬鹿か、違うって」
「何が違うのよ、駄目って、そういう事なんでしょ」
「そういう意味じゃねえ!」
「…じゃあ、どういう意味なの?」



問えば、返ってくるのはやはり曖昧な言葉。
しかし、ライナーは泳がせた目をゆっくり此方へ向けたあと、また顔ごと背けて、言った。






「…その、あれだ……っ可愛すぎるんだよ、お前は!」
「…へ?」


思っていたのと真逆の事を言われ、どういう意味、と聞き返す。
ライナーは今の台詞で吹っ切ったのか、ひとつ息を吐くと、真っ直ぐ私を見詰め直して、いつもの冷静な声で話した。



「その服、似合ってて可愛いから…可愛すぎるから、他の男に見られるのが嫌なんだよ」
「へ…?」



だから街に出るのは駄目だ、と顔を覆い直したライナーに、思わず呆けてしまう。
…ええと、それは、褒め言葉として受け取ればいいの?

左手に隠れたライナーの顔を見上げると、指の隙間から見える頬が赤く染まっているのに気付いた。




「……」
「誤解を生むような言い方してすまん、だが、」
「ライナー」


遮って、彼の左手に手を伸ばす。
そっと握って引き寄せると、案の定、顔中真っ赤になっていた。





「…ありがとう」


勘違いしちゃって、ごめんね。
微笑むと、眉を下げていた彼もようやく笑ってくれた。
恋人の意図も酌めないなんて、やはり、私の頭が残念だったようだ。
謝罪の意を込めてライナーの手を握ると、そのまま腕の中へと引き寄せられた。




「…ライナーの為に、頑張ってお洒落したのよ?」
「俺の為にか嬉しいな。…だが、今日は街に出掛けるのはやめだ」
「え?…じゃあ、デートもやめ?」
「そんな訳無いだろ。俺の部屋行くぞ」
「部屋って、でも皆に迷惑じゃ…」
「今日は全員街に出掛けてるから、誰も居ない」
「…!」



誰も居ない。
その言葉に、少し、ほんの少しだけ、どきりとした。
僅かに逸らした視線にライナーはにやりと口元を引き上げる。





「独り占め、してやるからな」






耳元で囁かれたそれは、低く、甘い、













独占欲









(もとより、貴方だけの私なのだから)

























「…なあクリスタ、あいつら彼処が宿舎前ってこと忘れてるよな?」

「うん…結構な人数に見られてるのにね」

「明日は盛大にからかわれるな、これは」