友愛情

「ナマエ、ナマエ!きいて!ナマエ!!」


猫の民とは思えない程の騒音で、此方へ向かってくる足音。
どたどたと騒がしく天幕にやって来たのは、予想通り、親友リィレだった。




「どうしたのリィレ、うるさいわよ」
「聞いて、ナマエ!聞いて!」
「はいはい、ちゃんと聞いてるから」


興奮した様子で鼻息荒く話すリィレを、少し落ち着けと無理矢理椅子に座らせる。
彼女はいつも元気なのだけど、今日はなんだか、より興奮しているようだ。




「取り敢えず落ち着きなさい。レテに言い付けるわよ?」
「あう…でも、でもね、」
「はい、深呼吸してー」
「すーー…はぁーー……」


何度か息を吸って吐いて、と深呼吸するリィレ。
こういうところは素直で良いんだけどなあ。
普段はどこか子供っぽいというか、元気が有り余ってるというか。
興奮したり血が上っちゃうと、特に。
正に今がそんな感じ。
周りの視線にちくちくされるのは私なんだから、せめて外ではもう少し落ち着きを持って欲しい。
ああ、そう、それ。今みたいに、おしとやかに。



「…で、どうしたの?」
「うんっ!あのね、明日ね、ライ隊長とお出掛けするの!」
「…ライと?」



束の間の淑女だったリィレは、またも声高々に話し始める。
しかし私はと云えば、それに呆れるよりも先に、飛び出した名前に反応してしまった。




「さっき鍛練が終わってから、隊長と話しててね。オリウイ草がもうすぐ切れそうだって話をしたら、明日にでも一緒に採りに行こう、って!」


嬉しそうなリィレに、胸がちくりとした。
無意識に唇の端が引き攣る。
…駄目だ、笑え、自分。
応援すると決めたじゃないか。



「良かったね、リィレ!一歩前進じゃない!」
「うんっ!明日こそ、隊長の心をゲットしてみせるんだから!」
「頑張ってね、リィレ!」


張り切るリィレに、精一杯の笑顔で相槌を打つ。
しかしどうしても、青い尻尾を揺らして微笑む彼の姿が、頭に焼き付いて離れなかった。



私の大切な、妹のような存在のリィレ。
彼女を応援すると、恋心を打ち明けられた時から決めていた。
たとえ私が想いを殺しても、彼女の恋を実らせようと。
そう誓ったのだ。
レテは、本当にそれでいいのか、なんて気遣ってくれるけど、私はそれでいいの。
リィレが幸せになる事が、私にとっても幸せなのだから。
大好きな二人が一緒に幸せになるなら、それ以上に嬉しいことなどないから。

私が彼に想いを伝えることは、今後も叶わないだろう。
だって、それが私の誓いだもの。
楽しそうに話す無邪気な笑顔に、私はもう一度、頑張ってねと笑った。
















(幸せになって、大好きなリィレ。)