百度目の正直





「また負けた…」

がしゃん、と音を立てて弾かれたクノイチを掬い上げる。
所々欠けて罅割れた機体を撫で、しかし、しょげる間も惜しくメンテナンスに取り掛かった。


「これで99連敗達成、ね」
「懲りねえなーなまえも」

背後から顔を覗かせるアミとカズ。
二人の横顔と声からは、呆れたような、寧ろ感心すらしているような気配がひしひしと感じられる。


「なまえ、もう止めておいたら?」
「やだっ!今日こそ絶対に勝ってやるんだもん」
「もう…」

肩を竦めて苦笑するアミが、上体を起こす。
それとは真逆に、より体を寄せて私のクノイチを覗き込むカズ。邪魔。



「でも、この間からずっと負けてばっかりじゃねえか」
「次は勝てるもん」
「毎回言うよなそれ」
「うるさいカズ」

一々口を出すカズの頬に、ぺちんと軽くビンタ(寧ろ裏拳?)をかます。
そちらへ顔を向けずに叩いたが、いてっ、と情けない声が聞こえたから、多分ちゃんとヒットしたんだろう。



「…よし、メンテ完了!ねえバン、もっかいやろ?」
「オレはいいんだけど…クノイチがもうボロボロじゃないのか」
「ちゃんとパーツ変えてぴかぴかにしてるもん」
「それでも、少し休ませてやらないと駄目だよ」
「うー…でも、悔しいんだもん。負けてばっかりで」
「なまえがバンに勝てる訳ないだろ」
「黙れクズ」
「誰がクズだ!」


横からまた茶々を入れてくるカズがまじでうざい。
あんただってバンより弱い癖に!


「とにかく、バンに勝つまでやりたいんだってば」
「もう、なまえったらほんと負けず嫌いなんだから」
「はは…」
「っていうか、なんでそんなにバンに勝ちたいんだよ」
「…なんでって…」



なまえが勝てるわけ無いのに、とかカズが言ったから、取り敢えず叩いた。

なんでって、そんなの…決まってるでしょ。
バンに勝ったら、伝えるって決めてる事があるの。
だから絶対、勝つまで諦めないんだ。

…なぁんて。
そんな事、絶対言えないけど。



「とにかく勝つまでやりたいの!」
「もう…頑固ねえ」
「バン、どうする?」


既に呆れてる二人に促され、バンは少し考える素振りを見せてから、私の方へ向いた。






「…それじゃあ、なまえ。こうしよう」
「ん?」
「今日はあと一度だけ、バトルするよ。その代わり、もし次もまた、オレが勝ったら…」


私の手の中のクノイチを撫でながら、耳元へ唇を寄せる。
突然の接近にどきりと強張る私に気付いているのかいないのか、バンはそんな私など気にせずに、囁いた。



「――…、――」
「……っ!!」



然もすれば、聞き逃してしまいそうなくらい小さな声。
だけど、私の耳には、絡み付くように大きく響いた。




「これがバトルの条件。なまえ…どうする?」
「……それ、私が言おうとしてたのに…」


私の顔を覗き込むバン。
首を傾げて、不敵な笑みを浮かべ、目線を合わせる。



「じゃあ…それで、いいよね?」


遠巻きに見ながら疑問符を浮かべるカズとアミを余所に、私は真っ赤になってひたすら頷いていた。












百度目の正直






『次もまたオレが勝ったら、オレと付き合って。』