レイン





しと、しと、ざあ、ざあ。

一日中降り続ける雨。
暗い雲から落ちて、私の傘の上で弾ける。
オレンジの傘越しにそれを眺めていると、足元に溜まった水溜まりを、ぱしゃりと踏みつけた。


「きゃ、」
「大丈夫?」


跳ねた水に驚いた私に、天馬が足を止め隣から顔を覗き込む。
大丈夫、と歩を促すと、天馬はまた前を向いて歩き始めた。


「結局止まなかったね、雨」
「うん、練習も休みだったし」


少し遅い放課後、天馬と二人きりの帰り道。
あたし達の他に、傘は一つも開いていない。


「あーあ、サッカーしたかったなー」
「残念だったね。流石にこんなに降ってたら、グラウンドは使えないもんねえ」


天馬が溜め息を吐く度に、あたしは苦笑する。
さっきから数回、同じやりとりをしている気がする。
本当に、天馬はサッカーが大好きだなぁ。




「…でも、あたしは降ってくれて良かったかな」
「え?」
「だって、部活があったら、二人きりで帰れないもん」


そう、今日は偶々、雨が降って部活が休みで、更にあたし達の委員会当番、それが重なった。
そうでなければ、二人ではなく、葵や信助くんと、四人で帰っていた筈だから。


「だって、ほら、あたしら、デートもあんまりしないからさ。たまには恋人っぽいことしたいじゃん?なーんて」


少し恥ずかしくなって、冗談みたく笑いながら言うと、天馬はふと歩くその足を止めた。


「天馬?」
「…ごめん」


なんで謝るの、と俯く天馬の顔を覗き込もうとすると、ぐいと腕を引かれて、抱き締められる。
反動で手元を離れた二つの傘は、それぞれ音を立てて落ちてしまった。


「え、て、天馬…?」
「ごめんね、なまえの気持ち、解ってあげられなくて」


しゅんとした声で囁く天馬。
気にしてくれたのか、と嬉しくなって、同時に申し訳なくなった。


「私こそ、変なこと言ってごめんね。天馬だってサッカーで大変なのに、我が侭言っちゃったね」
「我が侭じゃないよ!」


突然、声を荒げる天馬。
驚いて、びくりと体が震えた。


「我が侭じゃないよ…俺、馬鹿だから、なまえの事何にも気付いてあげられなかった。だから、なまえが…もっと、なまえの気持ち教えてよ」


俺、頑張るから。頑張って、なまえを幸せにしてあげたいから。

そう言って微笑む天馬に、どきどき、鼓動が速まる。
ああ、そんな優しいところが、大好き。


「ありがとう、天馬」


きゅっと抱き締め返すと、天馬は、照れたように笑った。




「次の休みは、デートしよっか?なまえの好きな所に行こう」
「…うんっ、天馬、大好き!」
「俺も、なまえが大好きだよ」


もう一度、互いに好きだよと言い合って、くすくす笑いながら抱き合う。
先程より少し弱まった雨が、私達の肩を叩いていた。