夏のせいだ。

ぎらぎらぎら。
太陽が燃えに燃える、八月真っ只中。




「…暑い」


景色が揺らめいて見えるほどの熱気に、私は只でさえ少ない体力を着々と奪われていた。
くそう、だから夏なんて嫌いなんだ。
暑いしだるいし日焼けするし、良い事なんてひとつもない。




「ねえちょっとまじ暑い。しぬ」
「あと五分くらいで着くから、もうちょっと我慢してよ」
「ごっ五分も…無理、溶ける、溶けちゃううう」
「うるさい」
「…あい…」



ぴしゃりと一言言い捨てるバン。
うう、ひどい…私が暑いの苦手なの、知ってる癖に。

元々生まれが北国な私は、寒さには耐えられど、暑さには滅法弱い。
だから今日だって、クーラーのガンガン効いた部屋でまったりゲームでもしようと思ってたのに。
…バンがデートしようっていうから、つい。
そりゃあ、ショッピングモールにつけば殆ど屋内だから別に問題ないんだけど。
それまでの道程が、歩いて二十分強。
バンは近いって言うけど、この灼熱地獄を徒歩二十分は、私には苦行過ぎる。
…それなのに、二つ返事で了承し、自ら地獄に身を投じるなんて、恋って怖い。
あ、一応言っておくけど、夏の日差しに負けないくらい私達の愛は熱々よーみたいなリア充、無理だから!
幾ら愛情が強くても、そんなものでこの灼熱に耐えられる訳がない。
しかし、都会の夏がこんなに暑いなら、沖縄とか行っちゃったら私五秒で死ねる自信ある。

そんな事を考えながらふらふら歩いていると、斜め前方のバンが急に振り返り、立ち止まった。





「どしたのバン、まだ着いてないよ?」


此方へ向いたバンを見上げ、首を傾げる。
突然立ち止まるとか、何なの。私としては、一刻も早くこの灼熱地獄から抜け出したいのだけど。
とか思っていると、ふいに差し出された、バンの左手の平。
目の前にあるそれをぼうっと眺めながら、怠け出した思考をのろのろ働かせた。



「なあにぃ…?」
「手、貸して」
「うぇ?」


言われるままに手を差し出す。
と、そっちじゃないと怒られた。
理不尽だ…とぼやきながら右手を出すと、きゅっと、握られた感触。





「…へ?」
「疲れたんだろ。もう少しだから、頑張って歩いて」
「…え」



優しく微笑んだバンの手が、私の手を包んでいるのを理解するのに数秒。



「ば、ん?」
「着いたら、アイスでも食べようか」
「う、うん…」




なんだよ、さっきまでとは正反対じゃない。
冷たくしたり、優しくしたり、気まぐれなんだから。




「好きだよ、なまえ」
「…!」



ああもう、バンのペースに飲まれては駄目だ。
そうは思っても、その気紛れに心揺らぐ。
身体中が更に熱を持ち、頭がくらくらするのは、きっと、









  のせいだ。