ご褒美は、君の





「あ、そうだ、これ」


昼休み、お弁当をもくもくと食べる私の目の前に差し出されたのは、一本のゲームソフト。
パッケージを見ると、先日、私がマックスに貸していたゲームだった。


「これ、こないだ貸したばっかのやつじゃん。もうクリアしたの?」
「うん。面白かった、ありがとな」
「いえいえ。てかマックスに貸すと、他の子より返ってくるの超はやいんだけど」
「そう?まあ俺ゲーム超得意だし」
「はいはい。どうせ徹夜してやり込んでるんでしょ」


隣に座るマックスからソフトを受け取り、サブバッグに仕舞う。
誉めてもいないのに何故か調子に乗ったマックスを適当に流して、食事を再開した。
あしらった事を特に気にした様子もなく、マックスはそのまま話を続ける。


「そういえば、あれもクリアしたんだよね。先週買ったやつ」
「え、まじで?ほんと早過ぎなんだけど」
「だから得意なんだってば。なまえ、コレやりたい?」
「やりたい!」
「じゃあ貸してやるよ。今日俺部活無いし、うちでやらね?」
「やるー!」


とまあなんとも単純な流れで、マックスの家に遊びに行くことになった。




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「あー!またしんだあああ」


放課後、マックスの家にお邪魔して、予定通りゲーム開始。
しかし、一時間ほど進めたところで、ボスに勝てずに行き詰まって叫んだ。


「こんにゃろー!勝てないー!」
「だからレベルが低いんだって。もっとザコ敵倒しに行けよ」
「えー、ザコとか無理。めんどい。つまんない。マックスやって!」
「いや意味解らん」


それ以上の挑戦を放棄して、コントローラーをマックスに押し付ける。
レベル上げはRPGの醍醐味とかいう人もいるけど、やっぱめんどいよね。うん。


「ねー、レベル上げてよ、それ。ボス倒せるくらいになったら、なまえちゃんが何でもご褒美あげるからー」


ごろんとマックスのベッドに寝転んで、伸びをしながら適当に言い放つ。


「…何でも、ご褒美くれんの?」
「うん、何でもあげちゃうー」


なんだ、見事につられてくれるのか君は。なんて単純…いや、良い奴なんだマックス。
私の代わりに面倒してくれるなら、購買ぐらいなら奢ってあげるよ。
真剣に画面を見詰め出したマックスの横顔を眺めながら、私はベッドに伏した。




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「何でもご褒美、だな。絶対だからな」


マックスがそう念を押して、約1時間。
少し眠ってしまっていた私は、目を覚まして唖然とした。
ゲームの勇者様は、レベルが格段にアップされ、先程のボスどころか次のダンジョンすら制覇しようとしていたのだ。
因みに、今現在のマップは私の知らない地図で、画面の中の彼が今どの辺りにいるのか、というかさっき放棄した地点からどのくらい進んだのかすら、私には全く解らなくなっていた。


「…まじか」
「お、やっと起きたか。だから得意だって言ったろ?」


得意気にこちらを見るマックス。
明からさまに、誉めてもいいんだぜ的なオーラを出してるけど、ぶっちゃけ尊敬の念よりも驚愕の方がでかい。
あとなんで勝手にストーリーまで進めた?
私の醍醐味はそこなのに。
……でもまあ素直にすごいとは思うわ。


「すごいね、流石マックス」


起き上がって、ベッドの上に座る。
すると、マックスはコントローラーを置いて、同じくベッドの上に膝をついた。


「…?なによ」
「何って、ご褒美くれるんだろ?」


私の目の前まできたマックスの言葉に、ああそういえばそんな事を言ったなあと思い出す。


「ご褒美、何でも、くれるんだよな?」
「うん、なんでもいいよ、何が欲しい?言っとくけど、あんま高いのは無しだからね」


ご褒美に食い付くとか子供みたいだな、なんて軽く考えていた私は、その瞬間、ぐるんと視界が回転した事に、ワンテンポ遅れて気付いた。




「……え?」
「"何でも"、くれるんだよな?」


にやりと口の端を釣り上げたマックスの顔が、私の目の前にある。あと何故かすごく近い。
あれ、そういえば、マックスの後ろに天井が見えるのはなんでだ。
そこまで考えてから、マックスに押し倒されたのだとやっと気付いた。


「…え?え、なに、し…」
「なまえが言ったんだぜ?ご褒美に、"何でも"くれるって」


状況を整理できない頭でも、普通ではないマックスの雰囲気には流石に気付く。
が、私が何か言う前に、その口は塞がれてしまった。
……マックスの其れに因って。


「ん…っ!?」


何が何だか解らない。
しかし、抵抗しようとしても、マックスの手が私の両腕をしっかり捕らえて離さない。
唇が合わさって息も儘ならない中、その隙間から舌が割り入れられた。
其れはいとも簡単に私の舌を絡め取り、魅了する。
口内や、頬や、体全体が、急激に熱を帯びていく。


「ん…っ、は…あっ」


やっと離された唇は、酸素を欲して大きく開かれる。
突然の出来事に、私は情けなく呼吸を荒げながら、マックスをただ見詰めることしか出来なかった。


「御馳走様」
「…え、な、えっ…?」


にやりと笑うマックスを見て、少しずつ頬が熱くなる。
ご褒美というのはキスの事かと納得する思考。
しかし同時に、一体どういう事なのかと困惑する思考。
だって、こんなこと、なんで、マックスが。
何が何だか解らなくなった時、マックスが私の耳元で囁いた。


「好きだよ、なまえ」
「……!」


完全に思考を停止した頭には、マックスの悪戯な笑顔と嬉しそうな声だけが焼き付いていた。







ご褒美は、君の

(ファーストキス、貰った)