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午前9時50分。池袋の60階通りと乙女ロードの境目交差点付近。彼女が何とはなしに散歩をしているところ、携帯電話とにらめっこしている狩沢を発見した。

……のが、運の尽きだった。

「こんにちは、狩沢さん。珍しいですね、一人だなんて」

「え? わっ、ベストタイミング! ちょーっと手伝って欲しい事があるの!」

「え、はい、何ですか?」

「今メールするから、まずはそこに書いてあるアドレスにアクセスして」

「は、はい……って早い! もしかして相当切羽詰まってます?」

「うん、かなり! あと7〜8分しかないから」

「わ、分かりました。急いで繋げます。えーと……」

「行けた?」

「あ、はい。これってチケット販売のサイトですか?」

「そうなのー! うちらが好きなアニメのイベントやるんだけど、すんっっっっごく倍率高くてさあ」

「なるほど」

「人気アニメな上に声優陣が豪華でねえ。確実にゲット出来るか不安なのよー。ドタチンや渡草っちにも頼んではいるんだけどね」

「だったら私も協力しますよ。よく友人に頼まれるので慣れてます」

「ホントにー!? ありがとう! 実はこの日、ゆまっちが誕生日でさ、これを誕生日プレゼントにしようと思ってるんだよね」

「そうだったんですか。なら気合いを入れてゲットしなきゃ!」

「うんうん、本当にありがとうー!」

「えーと……先に名前や住所の登録……あ……」

「ん? どしたの?」

「あ、いえ……」

(しまった、私にこっちの世界の住所なんて無いじゃないか……)

「……」

「あと3分っ。ああー取れるかなあ!」

(臨也さんの住所でいっか……)

「よし、出来た」

「販売開始まであと1分! あ、2枚でお願い出来るかな?」

「分かりました」

「よーし! 合言葉は“諦めたらそこで試合終了です”!!」

(なんというスポ根!!)

「さん、にい、いち……開始ーー!!」

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

「…………………………あ」

「どうしたの!?」

「取れたみたいです、ほら」

「わっ、本当だ……!! やったあ、ありがとうー!」

「良かったですね!」

「うん! ……ん?あ、なんか私も取れちゃったっぽい」

「えっ、被っちゃいました!? どうしよう……チケット2枚、余っちゃいましたよね……?」

「んー、まあそうなんだけど、回そうと思えばいくらでも……あ、そうだ」

「?」

「ねえ、折角だからさ、あなたも一緒にこのイベント行かない?」

「えっ……」

「そうよ、そうしよう! あ、お金は勿論私が出すから!」

「あ、あの……」

「ゆまっちもきっと喜ぶよー! 一緒にお祝いしてあげて、ね?」

(そう言われると断りにくい……)

「予定が入っちゃったりしたらそっち優先でいいから! ね、お願い!」

「……分かりました、確実な約束は出来ませんけど、都合がつけば……」

「ありがとうー!!」

(自分の世界の帰ってなきゃいいけど……)


♂♀


「……」

「……」

「お前が来るのは意外だったな、臨也」

「ドタチンこそ、あの子が来ると思って張り切っちゃった?」

「馬鹿言え。狩沢から無理矢理チケット押し付けられたんだよ」

「ふーん……ま、俺も似たようなもんだけどさ」

「そうかよ」

(……俺の住所暴露した挙句、当日を待たずして自分の世界に帰るとか……)

「私の代わりにお願いします、なんて言って逃げ帰るって、卑怯だよね」

「そう言いながらも律儀に守っている辺り、満更でも無いんだろ」

「まあ恩は売っておけるし、何よりこんなにも人がいるからね。詰まらなくはないよ」

「俺はちっとも楽しくねえな」

「ま、埋め合わせは彼女たちにして貰うことだね」

「い、今、俺と目があったっすよね!?」

「ああ、もう心のフォルダが歓喜の悲鳴をあげてるわ……!」

「狩沢さん、今日は本当にありがとうっす! 彼女にもお礼言わないとっすね!」

「急用で来られなくなっちゃって謝ってたのよ。だからまた今度誘って、観に来ようね!」

「そうっすね! みんなで!」

「……」

「「……はあ」」


運の尽きは臨也とドタチン。

ゆまっち、誕生日おめでとう!惜しむべくは、シズちゃんを入れる隙が無かったこと…!



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