小説 | ナノ

3


夢を、見た。




おかしな夢。




登場人物は二人。




俺は髪の長い綺麗な人になっていて、もう一人は前髪を横に流したかっこいい男の人。




どちらも、指輪をしていた。白と黒。色ちがいのものだと思う。




俺は泣きながら自分の指輪をその人に手渡した




その人は一瞬目を伏せて、切なげな顔で、俺に自分がしていた指輪をはめた




泣きじゃくる俺をそっと抱き締めたその人の温度が愛しい




手放したくなかった




どうしてこんな夢をみるのか




理由なんて分からないけど




なんでこんなに悲しいんだろう...?




******




「....朝...?」




カーテンの隙間から白い光が降り注ぐ。




「....変な夢。」




今さっきまで見ていた夢を思い出す。




夢は起きたら忘れてしまうものなのに、不思議と今日は、ハッキリ覚えていた。
夢の中の俺は、知らない人になっていて、それで...




「...は...?」




自分の手に視線を移すと、夢の中の俺が誰かと交換していた指輪が、確かに中指にはまっていた。




「え、ちょ...なん..で.」




つぅーっと頬を何かが流れていく。




俺の意思に反して止めどなく流れるそれに困惑した。



何とか止めようと目もとをこすってもこすっても止まる気配はない。



「...っくそ...訳わかんねぇ...」




朝起きたら指にはまっていた指輪、突然流れ出した涙。



当たり前の範疇を越えたそれらに対する疑念。




言い出したらきりがないほど不自然な出来事なのに



全く気にならないほどにどうしようもなく悲しくて




子供の頃のようにおもいっきり泣いてしまった。




しばらくしてようやく涙が止まった頃、指輪をじっくり観察してみる。




(...変わった所はないな。強いて言えば、今はほとんどないような品物って所くらいか...)




19世紀のヨーロッパにありそうな感じがする繊細なデザイン。




ヨーロッパの文化なんてほとんどわからない俺が言えた話じゃないが機械で大量生産した物とは思えなかった。




(...まぁ、悪いものじゃ無さそうだし、とりあえず貰っとくか)




指輪を中指から外し、ベッドサイドに置く。




「湊斗――ご飯だよ――」




自分を呼ぶ姉の声に適当に答えて、部屋を出ようとするも




何となく指輪を手放しがたくて




結局チェーンに通しネックレスにして持っていることにした。




「湊斗―――?!」




せっかちな姉が再び俺を呼ぶ声に、今度はしっかり返事をして




少し軽やかな足取りで階下に降りた。




この時、良いもの貰った位にしか思っていなかった俺が




首もとで光を反射させる指輪の真の意味を知るのは




もう少しだけ、先の話。




――――#01 end――――

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