小説 | ナノ

1


某年、イタリア CEDEF本部―


今日も書類整理に追われながら


門外顧問の机を預かる沢田家光は、不穏な空気を感じていた。


ハッキリとは言い表せない、けれど、絡み付くように生まれるこの焦燥感。


(妙だな...何も起こらないといいが)


しかし、こういう時の自分の予感はよく当たることを、彼は知っていた。


(...もし、あいつに関わることだったら)


ふと、はるか日本に暮らす我が子の顔が浮かんだ。


あの子は自分の、そしてこの巨大なファミリーの、大切な未来の希望なのだ。


何かあってからでは、取り返しがつかない。


(...先手、必勝...ってな。)


机に置いてある内線を取る。


しばらくすると、部屋のドアがあいた。


「...お呼びでしょうか、親方様」


黒髪の、あどけなさを残した少女。


彼女はまだ子供ではあるが、歴とした自分の部下だ。


幼い頃から手塩にかけて育ててきた。


「急な話ですまない。ミント、いや…夢。来月からお前に、日本にいってもらいたい。」


唐突な話だったので、夢は目を丸くした。


「...何のために?今のところ日本に私達のターゲットはいないはずですが...」


正当な理由を求める彼女の目は多少なりとも不満の色が滲む。


「...いや、任務ではない。何となく、嫌な感じがしていてな。...綱吉が、気になるんだ。」


歯切れの悪い回答に彼女は一瞬怪訝そうな顔をして、すっと目を伏せた。


「…もしも親方様の予感が的中して綱吉君に何かあった時、私が守ると、そういうことですか?」


「…あぁ、そうだ。」


この子はとても敏い。だからこそ、俺は彼女に頼んだ。


何が起こるとも知れない事態に臨機応変に対応してくれるように。


「...分かりました。お役に立てるよう、頑張ります」


俺のその期待すら読み取ったように


キッと前を見据えた彼女のまっすぐな目を、俺は今でも思い出せる。


「...頼んだ。」


本来なら、父親である自分の仕事をまっとうできない虚しさに自嘲の笑みがもれる。


部屋に響いた自分の声が情けなかった。


夢を下がらせて、再び内線をとる。


プッシュした番号は、この組織で唯一自分と同等の権利をもつ人間の執務室。


『…どうした、家光』


優しげな言葉で内線をとるその老人に将来の息子の姿が重なった。




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