3
しばらく無言で指輪を見つめていた哀光が口を開く。
「…不思議な事もあるものだね」
「…あぁ。…不思議…というよりかは、気味が悪いな」
「…同感。」
哀光に指輪を返しながら考える。
そもそも朝起きたら知らないうちに見たこともない指輪がはまってましたー、なんて、おかしい、あり得ない。
常識的に考えて、明らかな故意がなければなし得ないことだ。
だが実際指輪ははまっていた
姉たちの物かとも考えた、だけど明らかに男物の指輪を持っているはずもないし、わざわざ俺が寝てる間にはめる意味が無い。
それにあまりにもタイミングが良すぎる
(…どうなってんだ…)
それに加えて哀光も、だなんて。
考えても考えてももやがかかったように思考が動かない
(…一旦落ち着こう)
ぐちゃぐちゃになった頭を整理しようと冷めたカップに手を伸ばす。
生ぬるい少し渋みの強くなった紅茶をひとくち。
軽い苦味が頭を冷やしてくれたように感じる。
肺に溜まっていた灰色の空気をゆっくり吐ききって、カップを置こうとしたその刹那
ドンッッッ――――
吹き飛んだ木の板がこちらに牙を向け
白い粉塵が視界を奪う
爆音と共に一気に冷たい風が部屋に流れ込んできた
…何が起こったか理解するのに、たっぷり30秒。
ついさっきまで穏やかな時間を刻んでいたリビングの壁が大きな丸い口をぽっかりと開けていた。
未曾有の事態に脳は完全にフリーズしていた。
「ッ…なに……?!」
やっとこさ絞り出した言葉の情けなさすら、麻痺した脳には感じられない。
「湊斗、無事!?」
「なんとか!…ッ………誰だよ、おまえら。」
キッと眼前を睨み付ける。
荒々しく壊されて穴の開いてしまった壁の前に、人間が立っていた。
黒づくめ、見た感じでヤバイと分かる一生お近づきになりたくないような男が三人、手にもって歩いただけで確実にブタ箱行きの凶器を持ってこちらを見ている。
見ている、とは語弊がある。
正確には睨んでいた。
「……リングを渡せ。」
「「…?!何言って…」」
「渡せないというのなら…力づくで手に入れるのみ…」
「「!!!」」
返事をする暇もなく、二人の男の目が俺たちをそれぞれに捕らえる。
その瞳には、確かな狂気。
全身の毛を逆立てるかのように這い上がる悪寒。
やばい……互いにそう感じた時にはもう遅くて。
一瞬で間合いを詰められ、頸動脈に向かって凶悪な刃を突きつけられていた。
prev /
next