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カブリエルがいなくなった、と白石から聞いたのはおよそ10分前。
久しぶりに部活も休みで遊ぶということで嬉しくて鼻唄まじりに準備していたというのに白石からそんな電話が来たときにははっきり言ってあきれた。そんな、なんて言ったら白石は怒るだろうけど。









予定より早く家を出た俺が玄関のインターホンを押すと共に白石宅に鳴り響く、ピンポーンという音。それが合図かのようにドタバタと階段をかけ降りるおとがしたかと思うと、勢いよく玄関の扉が開き、目尻に涙をためた白石が抱きついてきた。


「謙也、どないしよ、俺のカブリエルがっ」

「お、おぅ。とりあえず中に入ろうや」


自分の家でもないのにそんなことを言って、今にも泣きそうな白石を連れて白石の家へと入る。
靴を脱いで白石について部屋に入ると、いつもきれいに片付けられているはずなのに、珍しく乱れた部屋が、どれだけ白石が必死にカブリエルを探していたのかを物語っていた。


白石によると、自分がトイレに立って帰ってきたそのわずか数分間に、いつもの所定の位置においているカブリエルが虫かごごと無くなっていたらしい。割りと大きいサイズの虫かごだからなくすなんてことはあり得ないし、カブリエルを大切にしていた白石ならもっての他である。










俺のカブリエル、と言いながら膝をかかえて座る白石にため息が出た。きっと俺との約束なんてどっかに言って頭の中はカブリエルだけなんだろう、と思うと悲しくさえなってくる。
しかしこのまま白石を放置するわけにも行かないので、カブリエル探しをすることにした。


「なあ、白石。トイレに行く前は確かにカブリエルはそこにおったんよな?」

「おん」

「そんとき部屋にはお前一人だったんよな?」

「おん」

「家に他には?」

「ゆかりだけや」

「じゃあゆかりちゃんが何か知ってるんやないか?――――っておい、白石!」


俺のことばを聞くやいなや、白石は勢いよく立ち上がって部屋を出た。きっと行き先はゆかりちゃんの部屋だろう。それしかない。

自分も追いかけようと部屋を出ようとすると、扉の開く音、ゆかりちゃんの驚いた声、そして白石がカブリエルの名前を叫ぶ声が聞こえた。






「俺のカブリエルー…!もう離さんからなあ」


ニコニコしながらカブリエルに頬擦りする白石にまた呆れる。

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