オーマイガール



優しい風が通り過ぎる午前。今日もいい天気になりそうだとカカリコ村を歩くとよく知る家の窓が開け放たれていた。故意的ではなかったが外からよく見えた家の中の状況に僕は思わず目を丸くさせる。

「ちょっ、名無!?」

壁にかかっていたタペストリーは落ち、本棚からはいくつかの本が崩れ落ちていた。なにかの紙も散乱しているし裁縫用の布も広がっている。まるで嵐が通ったような光景に僕は窓の縁に手をかけて身を乗り出した。


「あ、リンク。こんにちは」
「こんにちは…ってどうしたのこれ!?」
「一体ナニがアッタノ!?」

慌てる僕と大きく動きまわるナビィ。それとは正反対に名無は呑気ににっこりと笑って僕に挨拶をする。な、なんでそんなのんびりと…!


「そんな怖い顔しないで。なんでもないの」

もっていた本をテーブルの上に置くと名無は僕の前までやってきて僕の眉間を人差指で撫でた。皺を伸ばすように撫でる指先がくすぐったい。怖い顔をするなと言ってもこんな状況ではしない方が難しいよ。

話を聞くとどうやら窓から鳥が飛び込んできて色々ぶつかって行った上にそれに驚いた名無も鳥を追ってばたばたと色々ぶつかった結果がこれだそうだ。ちなみに人騒がせな鳥は一度ぱたりと落ちたがすぐにまた飛んでいったらしい。随分と人騒がせな鳥だなあ…。


「私も初めてのことだったから吃驚しちゃってねー」
「…経験したことのある人の方が少ないよ。大変そうだね、手伝うよ」
「ホント?実はちょっと一人じゃ大変だなーって思ってたの」
「ナビィもがんばるヨ!」
「ありがとう」

玄関から回って部屋に入ると窓から見たのと同じ風景が広がっていた。うーん、これは大変そうだ。






「ありがとう、リンク。すっかり助かっちゃった」
「これぐらいどうってことないよ」
「ううん、重たいものも運んでくれたから頼もしかったよ」
「ホ、ホント!?」

頼もしい、という言葉に胸が高鳴る。いつも子供扱いしてくる名無が僕を頼りにしてくれた、それだけで嬉しくって思わず聞き返す。すると名無は笑って僕の頭を撫でた。

「うん。さすが男の子だね」
「……」

なんだかナビィの憐れむような視線を感じた。







「名無はどうやったら僕を男として見てくれるんだろう」
風車小屋の階段からカカリコ村を眺めて溜息をつく。名無の家の窓からはみ出たカーテンが風に揺れていた。ふわりふわりと掴みどころのなさそうな布はまるで名無にそっくりだ。
…。男の子、子ってなんだよ。だいたい名無と僕の年齢は変わらないのに。そりゃあ、7年眠っていたからちょっと成長しきれてないところがあるのはわかってるけど…。僕ばっか名無にどきどきしていて何だか悔しい。


「はぁ…」
「そんな落ち込んでてもダメヨ、リンク。もっと元気にいかないと!」
「わかってるけどさあ」

ふと風にのって聞こえる男女の声。そうだ、あの人たちに聞いてみよう。僕は風車小屋から降りて風車小屋の裏側へと回った。
日陰になったそこにはくるくると手を取り合って回る男女。お互いをダーリン、ハニーと呼び合う二人は7年経ってもずっと仲がいい。大人な彼らならきっとこういう話、にもアドバイスをくれるかもしれない。




「どうしたら女性に男としてみてもらえるか?」

くるくると回るダーリンは僕にちらりとだけ視線をよこす。ハニーの方は依然とダーリンに釘付けだ。自分でしておきながら少し恥ずかしい質問を復唱されて僕は少しだけ照れる。

「難しく考える必要はないさ。簡単なことだよ」
「えっ…?」
「よく考えてごらん。男だから恋愛対象になれる訳じゃない。でも恋愛対象になれば男として見るようになる。そうだろう」

そうだろうって…そっちの方が難しい気がするんだけど…。僕を子供としか見てない名無が僕を、れ、恋愛、対象なんて…。隣にいるナビィはなんか妙に納得してるし。そんなことが簡単にできるのなら僕はここまで苦労しない気がする。ちょっとだけ不満に眉間を寄せるとナビィが僕のおでこを小突いてきた。

「ヘイ!リンク!もっと自信をもって!」
「…じゃあどうしたら女性に恋愛対象として見てもらえるようになりますか?」
「やっぱり女性を振り向かせるにはプレゼントさ。愛を形で表す。目に見える感情は強いと思うよ。なあハニー」
「そうね、ダーリン」

くるくると回り続ける彼らにお礼を言って僕は風車小屋から離れた。なんか…結局あんまり解決しなかったような…。うーん…とまだ頭を悩ませる僕の前にナビィが踊り出る。ふわふわと浮かぶ体に顔をぶつけそうになった。

「とりあえず行動してみましょうヨ!」
「…そうだね」

まずは行動から。僕は名無にあげるプレゼントを探しに村を出た。







「ホラ、リンク!ガンバって!」
「う、うん」

ぐっと気合いをこめて、名無の家の前に立つ。こんこん、とノックをすれば「はーい」とちょっと高い名無の声とテンポの速い足音。僕の緊張を落ち着かせる間もなく彼女の家の玄関は開かれた。

「あれ、リンク。いらっしゃい」
「あ、あの、これ…!」

ズイッと花を差し出すと名無は少しだけ目を丸くさせる。女の子の好きそうなものがよくわからなかった僕は森で詰んできた花をコキリの森の女の子たちにお願いして包んでもらった。みんなはきっと喜んでくれるって言っていたけれど、僕の心臓はどきどきしてやまない。

「もらっていいの?」
「うん」
「いきなり、どうして…?」

風に揺れた髪を少しだけ直しながら名無は僕を見上げる。手の中にある黄色い花もゆらゆらと揺れて僕の言葉を急かした。顔に集まる熱のせいで口がうまく開かない。


「名無には花が、似合うから…!」
緊張でしどろもどろになってしまったけれど名無はゆっくりと花を受け取ってくれた。

「ありがとう」
そういって名無は花に負けないくらい綺麗に笑う。

「でもさ…」
名無はふと、手の中の花の一本を抜きだし茎を短く折った。僕があげた時より背丈の短くなった花が僕に近づく。そのまま花は僕の耳の上ぐらいで、帽子と髪に挟まれ固定された。

「リンクの方が花は似合うよ」
だってリンクは太陽だから。そう笑う名無の笑顔が眩しくて、どきどきして、僕はまた顔を真っ赤にさせてしまうのだった。ホント名無には敵わない。こんなんじゃ名無に男として見てもらえるようになるのはいつになるんだろう。





-----------
あけちさま、一周年企画のご参加ありがとうございましたー!

リクエスト頂いたヒロインに子供扱いされないよういろんな意味で頑張る僕っ子大人時リンでしたが…い、色んな意味にならなくて申し訳ないです…!いや、あのなんか勝手に千秋が色んな意味で大人→いやーんな方向に頭がいってしまってそんな破廉恥!とか一人で悶々いやすみませんホントごめんなさい。

どうでもいい話なのですが話のなかで勇者が「恋愛」という言葉を使うのに躊躇ってます。「こういう話」とか「れ、恋愛」とか。あと落ちではヒロインに手玉にとられ(笑)ずっと照れっぱなしでした。まだまだ恋愛に初な勇者を意識した感じです。子供扱いされたくないのにまだ大人になれていない勇者をお楽しみいただけたら嬉しいな、と。
そして結局子供扱いのままの勇者くん。彼の苦悩は続く。


一番初めのご参加本当にありがとうございます!あけちさまには前にも僕っ子時リンを好きといって頂いて…嬉しい限りです。僕っ子時リンいいですよねふふふ。同士さまがいらっしゃってあの時はものすごく舞い上がったものです。


執筆が遅くなり申し訳ありませんでした。もしよろしければまた足をお運びください。これからも僕っ子時リンを増やしていくので(笑)

一周年企画のご参加ありがとうございました!これからもどうぞご贔屓に!




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -