巷で噂の草食系



「ダークも寂しかったら死ぬの?」
「は?」

いきなり何を言い出すんだこいつは。水の張られた神殿で座りこむ俺と勝手に隣に居坐っている名無。手持無沙汰なのかそこらへんにある小石をほいほいと投げながら一緒に投げられた言葉は俺の眉間にシワを寄せた。するとあっちはそんなこと予測していたかのように普通の顔をして言葉をつなげる。

「だって寂しいと死ぬってよくいうじゃない」
「人間が、か?」
「いや、ウサギ」

そもそもダーク、人間じゃないでしょ、と続けるがその前にウサギでもない。訝しげな視線を投げ続けると小石を見ていた名無の視線がようやく俺の方を向く。なんの疑いも持たないようなその顔が癪に障った。

「ウサギでしょ。毛は真っ白だし目は赤いし」

そういって名無は俺の髪に手を伸ばす。少し身体を後ろに引いたがそれより長く名無の手が動いて俺の髪が名無の指に捕えられた。強く引っ張られる訳ではないけれど顔の横でちらちらと動くさまが鬱陶しい。がしりと腕を掴んで髪から離したがもう片方の腕がすぐに伸びてきて結局状況は変わらなかった。

「そんな草食動物に例えられるのは不愉快だ」
「かわいいじゃん」

可愛い、可愛くない、の問題じゃない。なんで俺がそんな弱い動物と一緒にされるんだ。そう不機嫌さを全面に出しているにも関わらず名無は撤回する様子を微塵も見せないで髪をいじっている。

「ねぇ、死んじゃう?」
「魔物がそんな簡単に死ぬわけがない。第一ウサギが寂しくて死ぬのは迷信だ」
「そうなんだけど、さ」

呟かれた言葉はやけに落ちついていた。いつの間にか名無は俺の隣に膝立ちになって真剣に俺の髪をいじっている。手持ち無沙汰にも程があるだろ。だが振り払うのもめんどくさくなって俺は視線をどこか宙に漂わせていた。

「魔物だからやっぱり精神的に脆かったりするのかな、って」

前に本で読んだ魔物は肉体的に強い分精神が弱いって書いてあったからダークもそうなのかと思った。髪と指の擦れる音がする。なんだそれ。人間がわかったようなことを書いて、馬鹿らしい。今すぐにそんな本捨てちまえよ。

「…人間の知識に毒されすぎだ」

するり、俺の頬を撫でた名無の指先がくすぐったかった。いつまでもいいように遊ばれているのは気に食わない。名無の両腕を掴むと少し身体を屈めた名無と視線が合う。ぐるりと映る俺の顔はまだ眉間にシワが寄っていた。

「少なくともお前よりは先に死なない」
「…そう」

しっかりと名無の目をみて言ったのに何故か名無は頬を緩めて俺から視線を逸らした。よくみれば肩が少し震えている。

「な、んだよ」
「いや、ちょっと、うん」

問い詰めようと身体を前に倒したところでふと違和感を掴む。嫌な予感に名無の向こうの水を覗き込むと自分の頭の上でゆらゆらと揺れる二本の長い耳。水に映る自分の顔が引きつった。

「おい、名無ッ!」
「似合ってるよ!だから手離して!」
「ふっ、ざけん…なっ!」

勢いよく腕を振って名無を投げれば浅く張られたはずの水が派手な飛沫を上げる。水浸しになった名無は「せっかくリンクから借りてきたのに、」なんて文句を垂れていた。くだらないことに手間暇かけすぎなんだよ。それと、仮に寂しくて死んだとしてもお前がいたんじゃその死に方は選べそうにない。

水浸しの名無の隣にウサギの耳を揺らしながら腕を組んで立つ自分の姿が映っていた。





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斎さま、一周年企画のご参加ありがとうございましたー!

ダークリンクでギャグ甘…ということでしたが、ギャグ?これギャグって言ってもいいですか…?うさみみつけて仁王立ちしながら睨み付けてくるダークさんを想像すればきっとギャグですよ!うさみみつけたままキリッて顔したダークさんもギャグですよね!でもダークさんうさみみ似合いすぎて逆に真剣かもしれませんね!(笑)

…ホントにすみません。
ギャグセンスが無さすぎる。うぅ…。


一周年企画ご参加ありがとうございました!これからもどうぞご贔屓に!




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