少女警戒注意報


魔物ばかりだと思っていた炎の塔にも書物庫がある。数は少ないが魔物の本なのか見たことないものばかりでオレの興味を引いた。読めない本もあったがいい時間つぶしにはなる。シャドウがグリーンたちを見張っている間、オレはそこに行くことが多かった。塔の中はあらかた調べたし動くにも今はまだ早い。つまりやることがないんだ。






「ねぇ、あんたなんのつもり?」
今日も同じように部屋から持ってきた椅子に座って本を読んでいると気配もなく後ろから声をかけられる。振り返ると扉の方に名無の姿が見えた。


「なにがだ」
「とぼけないでよ」

彼女はシャドウリンクと同じように炎の塔を拠点としている魔物だ。アイツと同じように人の形をとってはいるが雰囲気がまるで違う。オレが来てから良い顔を一度も見たことがなかったが今日は特に機嫌が良くないらしい。


「オレには何を言っているのかさっぱりだな」
「だから!勇者のあんたがなんでこんなところにいるの!」
「…初めにいっただろう。オレは闇の力で目を覚ましたんだ。お前と同じようにグフー様に仕えるんだよ」

そういうものの彼女はお気に召さないらしい。眉間に皺をよせたままオレの方を見ている。シャドウは案外あっさり信じたのにコイツはなかなか信じてくれないもんだな。未だ警戒心をそんなにむき出しにされてちゃこっちも居心地が悪い。


「早く出ていけばいいのに」
「…そんなこというなよ。オレがいると何か不都合でもあるのか?」
「あるわよ!」
「へぇ」


彼女は予想以上に声が出てしまったようで口元を慌てて抑えた。自分でいうのも変だがグリーン達相手にはとても有効な駒だと思うんだけどな。意外と自分を買い被っていたのだろうか。
そんなオレの思考はよそに彼女はつかつかと歩み寄ってきてオレの目前にその人差指をつきだす。


「アンタが来てからシャドウはいっつもアンタのことばっかり話すんだから!作戦のときだってシャドウの近くの配置はいぃぃっつもアンタばっかり!」

「今までその場所は私だったのに!」




彼女の大きな声は書物庫の中に良く響いた。しかし今度は口を隠さず、オレを指差したまま睨みつけてくる。
その時のことを思い出しているのだろうか、きりりと釣り上がった彼女の目にはうっすらと涙が張っていた。よく見れば目の前にある指先も小さく揺れている。オレはといえば、突然のことに驚いたがすぐに噴き出しそうになるのを堪え思わず手のひらを口にあてた。だが、頬がにやけるのを抑えられない。こんな単純なことだったなんて。



「そうか…それは、悪いことをしたな」
「そう思うならさっさとでってよ!」

ぷっくりと膨れた頬がふるふると震える。まるで幼い子供をいじめているような気分になった。
目の前にある手を掴むと名無は肩を跳ねさせ腕を引くがオレの手がそれを許さない。ぎゅっと握られた拳をゆっくり開いてやると名無の腕を引く力が少し弱くなった。


「でもオレはまだやることがあるから出ていけないんだ。お前だって仕事が滞るのは嫌だろ」
「むっ…」
「だから、な。もう少しオレにもつきあってくれよ」


そう笑ってポケットに入っていた飴を手のひらに乗せる。名無の手首を掴んでいた手も離したが名無は口をつぐんだまま動こうとしなかった。心なしか顔が赤いけれど大声を出してのぼせたのだろう。もう一度手のひらへ視線を動かす。流石に飴玉で絆される程子供じゃなかったか?


「名無?」
「こ、こんなんで…こんなんで懐柔したつもりになるなよーっ!」

ばっと踵を返した名無はばたばたと部屋を出ていく。途中で何回か大きな音がしたけど大丈夫か、アイツ。
少しして慌ただしい音もなくなったのでオレはまた椅子に座って本を読み直す。
それにしても、これからはもう少し違った暇つぶしが出来そうだ。くすくすと漏れる笑い声は本の表紙たちだけが拾った。





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灰さま、一周年企画ご参加ありがとうございました!

長らくお待たせしましてすみません。頬を平手打ちぐらいして下さると喜びます。

いつも重苦しい私信に応えてくださってありがとうございます。日記読みながらによによしてたまにベッドの上ごろんごろんしてます。小説を拝見しにいってるのに灰さんが可愛すぎて灰さんにときめく。ときめけ!

4剣ヴィオに挑戦してみましたが、む、むむむっ…ヴィオのかっこいいところが上手く表せなかったですね…(´`;)夢主は影に恋心を抱いてるつもりだけど実際は仲が良いだけで自分でも勘違いしてる、という裏設定。だから紫に優しくされてどぎまぎ。補足がつかないと分からないなんて未熟者すぎる…!すみません。
紫は前から書きたいと思っていたので紫の方を選ばせていただきました。書く機会を下さった灰さんに感謝!でもちょっと難しかったのでぜひリベンジさせてください(笑)
4剣漫画いいですよねぇ…。影と紫のやり取りは胸が熱くなります。


だらだらと長い後書きになってしまいすみません。これからも4剣だったり木の実だったり色々手を広げていきますのでお付き合い頂けたら嬉しいです。今後もどうかご贔屓に!




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