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▼ 気付いた




泉の奥で魚が跳ねた。
「あまり遠くに行くなよ」
「わかってる」
サンダルを脱いでばしゃばしゃと水を跳ね上げながら泉へ入っていく。水の上を滑るような風が足を冷やした。小石が足の裏にささるが、気にもせず私は泉の奥まで足を進める。次第に水につかる部分が増え私の体温を奪っていった。
水の青。空の青。光の乱反射。波間と風間で光が揺れる。綺麗だ。
それを掴みたくてまっすぐに手を伸ばしたが、ふわり風に動かされ私の手をすり抜ける。もう何度も掴もうとしているのにいつも逃げられてしまう。少しだけ悔しくてそれを追った。水が跳ねて服を濡らしていることなんて気にも留めない。あと少し。もう一回だけ。
「こら、名無」
ふいに前に進まなくなった体。思わずつんのめった。見ると腰に回された腕。伸ばしていた自分の腕は後ろから生えている手に掴まれていた。背中には先程まで通っていた風はなく体温がある。前のめりになっていた体を正すと温もりとの距離がなくなった。
「遠くに行くなっていっただろ」
「リンク…」
顔を傾けると金色の髪が私の頬を撫でる。青い目が私を映した。青。空と、水と、同じ青が光を反射する。
「服もびしょびしょじゃないか。もう帰るぞ」
呆れたようにリンクが息を吐く。私は何も答えずにリンクの目を見つめているとリンクは穏やかに笑った。ぎゅっとリンクの腕に力がこもる。ちょっとだけ、苦しい。けど、もっとギュっとしてほしい。

乾いた唇が私の首に擦れた。
伏せられた青がもう一度私を映す。あぁ、私は愚かだった。こんなにも、綺麗。一際強く吹いた風が私を行動に移させた。思いっきりリンクの腕を引いて水の中に押し込む。
「うわっ!ちょっ…」
勢いよく水が弾けた。ぶくぶくと沈む視界の端で私の今いる位置が泉の端からそう遠くない場所にいることを教える。リンクってば、まだこんなに近いのに。過保護すぎ。水中で青がゆらゆら揺れた。

泳ぐ金糸の合間に手を差し込んで唇を重ねる。ぽこり、口端から気泡が漏れた。魚でもない私たちにここで呼吸するすべはない。すぐに私の背中と頭に腕が回って態勢が動かされた。いつもそうだ。リンクは、いつも私を

「ぷはっ!」
上を向いて顔をだしたリンクは大口を開けて空気を取り込む。私はぎゅっとその首に腕をまわした。体の半分以上が泉の上に出ているのにまるで離れまいとぴったりとくっつく私の背中にリンクは手を回し支える。
「…危ないだろ。名無」
「ごめん。でも」
「でも、なんだよ」
「リンクが、欲しかったの」

私が青と光を掴みたかったのは、彼のせいだ。ただそれにリンクを重ねていただけだった。

「なんだよ。それ」

リンクの手のひらが私の顔をずらし視線を合わせる。リンクは眉根を少しだけ寄せて笑った。何って、そのままだよ。リンクを掴みたかったの。目の前の青を見つめているとリンクの指先が私の顔に張り付いた髪をはがし、整えた。風が水にぬれた体を冷やす。

「俺は、ずっと名無を捕まえておきたい」
本当は一時でも離したくないんだ。最後は音になる前に私の唇に消えた。私は押しつけられた唇の温もりを感じながら目の前の金色に指を絡ませる。本当は最初から掴んでいたんだ。私の青と光。






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