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▼ 混沌パープル

「えっ」
嘘でしょ。つい二度見してしまった。スカイロフトに戻ってきたリンクはショッピングモールで矢束を購入している。私はちょうどお昼ご飯を買おうとジョナさんのお店に並びにいくところだった。前に帰ってきた時より少し傷が増えているようだがこれはいつものことで、私が気付いたのは彼の耳元で揺れる、赤い、ピアス。

つい自分の耳元に手をやる。それは変わらず今日もついていた。彼とおそろいだった、青い、ピアス。ドキドキと徐々にペースを早くする心臓をよそに歩みを進める。自分も気付かないうちに歩く速さも上がってちょっと勢いよくカウンターに飛び込んだ。定番スープとサンドイッチセットひとつ。ここに来る前は新作スープを頼もうと思っていたのだが、もうそんな脳みそのリソースが残っていなかった。「出来上がったら呼ぶからね」いつもと変わらないジョナさんの声に私は返事を返したか返さないかも曖昧なまま備え付けの椅子に座る。ひとつ向こうの席には常連のおじいさんがいつもと同じスープを飲んでいた。ちらり、商店で会計をしているリンクを覗き見る。ここから件のピアスは見えないが、確かにそうだった。二度もみてしまったのだから間違いない。彼のとがった耳で揺れる赤。…あーあ。おそろいだと思って浮かれていたのは私だけだったのか。一度落ち着いてみると、心臓は普段のペースを取り戻したが、心の中にもやもやとよくわからない感情が沸き上がった。いや、これは純粋に、ただの、我儘だ、と思う。

「あ」

リンクがこちらに気付いた。財布をしまうと片手を上げて小走りでやってくる。その顔はなんの疑念もない、いい笑顔だった。

「やあ、名無。これから食事?」
「うん。持って帰って部屋で食べようと思ってた。リンクは?」
「僕もこれから。同じのにしようかな。なに頼んだの?いつもの?オッケー。あ、それなら一緒に外で食べようよ」
今日は天気がいいから。そう言い終わらないうちに彼は注文カウンターへ足を向けた。また見てしまった。何度見ても間違いない。彼の耳元で揺れるのはやはり、赤いピアスだった。つい、むすっとしまう顔を何とかごまかそうと頬をつねってみる。両手で引っ張っていると注文を終えた彼が戻ってきた。

「なにしてるの」
「…顔の体操…」
「なにそれ」
ははっと笑ってリンクは私の目の前に座った。つい揺れるそれを目で追ってしまう。…どこで買ったのだろう。なぜそれに変えたのだろう。私とお揃いは嫌になってしまったのだろうか。なぜ、どうしてばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡った。

「…僕の顔、何かついてる?」
「ううん…。今日もハンサムだよ」
「ありがとう。名無に言われると照れちゃうな…」
照れ臭そうに頬をかくリンクは私の視線の先に気付いていない。

「…そうじゃなくて。誤魔化したでしょう。名無、何かあった?」意外とちゃんと気付いていた。
ぐっと顔を詰めてくるリンクに観念して私は口を開く。なんとなく後ろめたくて、視線を合わせられなかった。また心臓が音をたて始める。

「その…赤…」
「赤…?あぁ、これか」
私の一言で彼は気付いたのか自分の耳元に手を寄せた。その指先に赤いリングが引っかかる。
「…名無とお揃いだったんだよね」
さらりと流れる言葉に胸が締め付けられた。まるで彼はそれがただの附属事項とでもいうように。そのことに固執していたのは私だけだと、心臓を一刺しにされたようだった。じわりじわりと心臓の傷から痛みが広がる。そんなことかと呆れられていたらどうしようか。彼と目が合わせられない。

「…これ、神様の道具なんだって」
「神様の道具…?」
「そう。地上の神様が残した神器。これがないと火山を抜けられなくて」
他にも長く泳げるウロコとかもらったけど見る?というリンクに私は「いい」とだけ返した。思っていたより穏やかな声色に少しだけ安堵した私はちらりと彼を伺い見る。

「あのピアス、名無とお揃いだったから僕も気に入ってたんだけど、これがないと先に進めないから仕方なく替えたんだよ」
そういって彼はにっこりと笑った。気に入っていた。リンクもお揃いを気に入ってくれていた。その事実だけでさっきの心臓の傷がたちまち消え去ってしまった。嬉しさにまた心臓が高鳴ったが先ほどよりなんだか心地良くてつい笑ってしまう。

「僕とお揃いじゃなくなっただけで拗ねるなんて名無も可愛いね」
「すっ、拗ねてなんかないよ」
「照れなくていいって」
だけって言い方も悪いか。なんて付け足すリンクはごそごそとポーチの中を物色し始める。先ほどのウロコでも出てくるのだろうか。その手元を見つめていると彼は目的のものを見つけたのか握りしめた拳を私の目の前に突き出す。

「はい。手、だして」

言われたままに両の掌を彼に向けて出すとぎゅっと乗せられる小さなもの。馴染みのある感触だとその記憶を辿りきる前に彼の手の下からその姿を現す。それは私がつけているものと同じ、青い、ピアス。

「しばらくはまだコレつけてなくちゃいけないから、こっちは名無に預けておくね。…この旅が終わったら、名無が僕につけてほしいな」
「…わかった」
私のものより少し色褪せて、傷のついた青いピアス。彼のそれが自分の手の内にあることがなんとなく嬉しくて頬が緩んでしまう。

「そうだ。いいこと思いついた。名無のピアスも僕にちょうだい」
「え」
はい、と、出される手に慌てて―持っている彼のピアスをポーチにしまい―自分のピアスを外し、ハンカチで拭いてから彼の手の平に渡す。それを彼も笑ってポーチへしまった。

「次に帰ってくる時はお土産を用意しておくよ」
神様が作ったヤツじゃないけど、同じ赤いヤツをさ。

照れ臭そうに笑う彼が眩しくて私は、うん、としか返せなかった。「名無、リンク、おまたせ!」遠くでジョナさんの声がする。一緒にもらってくるよ、と席を立つリンクの耳もほんのりと赤かった。戻ってきた時はちゃんとありがとうって言おう。一緒に取りに行ってくれて、お揃いを増やしてくれて、お揃いより大事な約束をくれて。




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耐熱イヤリングを手に入れたときに「イヤリング!?」ってなりませんでしたか?私ずっと勇者はピアスだと思っていました…。神器がイヤリングだっただけで勇者はピアスであってくれ。
話自体はオオカミ勇者の話とほぼ同じですね。レパートリー不足は性癖のせいということにしておいてください。








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