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▼ 背面に青



ごぼごぼと水に空気の混じる音が心地よかった。
だんだんと水に溶けこむ身体はやがて形を無くし、俺の意識だけが水に浮かぶ。神殿の暗い水底とは違い、この湖にはいくつもの光の帯がゆらゆらと揺れていた。ずっと神殿にいる俺にとってそれはとてつもなく眩しかったが、嫌いじゃない。あそこでは時折しかゆれることのない水面もここではいつも風や魚が揺らしていた。普段の冷たい水とは違う温度を持ったそれに俺はだんだんと意識さえも水に溶けてしまいそうになった。
ばしゃんと音を立てて大きく水面が揺れる。白い泡がぶくぶくと塊で落ちてきた。やがて、それの表面が気泡の下から現れ始め、こちらに迫ってくる。それは、俺の知っているものだった。そいつは両腕を広げ形をなくしていたはずの俺の体を抱きしめ、俺の目前で笑う。急なことに少しあせった俺は残りの体を成すと、そいつと一緒に水面に顔を出した。
「おまっ、いきなりなにしに来やがった!」
ぬれた俺の体にしがみつくこいつは、水を飲んだのか咳き込んだまま下を向いている。そのまま、落ち着くまで、体を支えてやると少し荒い息を残して俺のほうを向いた。
「ダークが…、げほっ、みえた、…から」
「…」
あほだ。こいつはあほでバカだ。知ってるやつが見えたからといって、思いつきで湖に飛び込むやつがいるか。しかも、そのまま水飲んで苦しんでるし…。そもそも俺は魔物でお前はただの人間だろ。もし、あのまま俺が水底に引きずり込んでいたらお前は死んでたんだ、そしたら、さぞ滑稽だろうな!
「でも、ダークが私を殺したら私の最期はダークで終わるんでしょ?そしたら私心残りなんてないよ」
……やっぱりこいつはバカだ。
「お前に心残りはなくても俺にはある」


「お前は、俺と一緒に死ぬんだ」
水と同化して、普通なら全く見えないはずの俺を見つけ出したうえに、形まで作らせるようなやつが勝手に俺より先に一人で死ぬなんて許さない。
「…ダークが殺すっていったくせに。変なの」
そう言ってこいつはまた笑った。少し癪に障ったから口をふさいだまままたごぼごぼと沈んでやる。背中に回された腕に力がこもったのが分かった。俺の体は依然と形を成しているのに、あぁ、水に溶け込んでいるようだ。

(背面に青)



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