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▼ 風邪をひいた日


頭がぐるぐるする。お腹の中が気持ち悪い。鈍感だとバカにされる私でも流石に気づいた。というか、今回は鈍感とかいう前に自覚したら負けそうな気がしたから気付かないふりをしていただけなのだけれど。そんな言い訳をぐだぐだしていても、もう遅い。喉の奥がせまくなる感覚と胃の痙攣に耐えきれなくてつい自分のお腹に手を当てる。

「気持ち悪い」

完全に風邪ひいた。最近めっきり寒くなったからかなあ。あぁ、またイリアに管理不足だって怒られるな。でも家にある毛布は全部出してるし、部屋はなるべくあったかくして寝ている。だから今回は私じゃなくて気候のせいだ。

水をコップに移して、一口。買い置きしてた薬どこやったかなあ。うまく働かない頭で思い返すとちらちらと横切る金髪。そうだ、持ってなかったから押し付けたんだ。途中で買うからいいって言うリンクのポーチに無理矢理詰め込んで送り出した。あれ、いつだったかな。もう大分前の事のように感じるのはこんな体調だからだろうか。カレンダーを見ようと体をひねるが少し頭を動かしただけで目が回る。それ以上動くのもめんどくさくなって、結局いつの事なのかわからなかった。シンクに寄り掛かっていた足の力が抜けてずるずるとその場にしゃがみこむ。せめて、ベッドで寝たい。こんなところで寝たら風邪が悪化しそうだ。でももう足にも腕にも力が入らない。落ちてくる瞼に少しばかり抵抗したがそれも虚しく私は意識を手放した。


「…ぐぅ」
目を開けるとうすい青色の室内が目に入った。明りは付けていないけど、カーテンを開けっぱなしにしたままだったせいで窓から入る月明かりで部屋全体が明るい。結局床で寝たままになってしまった。どれくらい寝たのだろうか。時計を見るのもめんどくさい。頭は相変わらず痛いしお腹の中もひっかきまわされているように落ち着かない。のそのそと起き上ってベッドまで歩く。冷えた床が足の裏を刺した。寝巻にも着替えずベッドにもぐりこむと悪いところを全部無視して目を瞑る。こんな時ぐらい傍にいてほしかった。冷たい足を擦り合わせてみるが、温まりそうな気配はない。我儘だとわかってはいたけれど彼を思わずにはいられなかった。去年の冬みたいに足を絡ませながら笑いあう夜が恋しい。彼の方がよっぽど辛い思いをしているのも知っている。でも、人間風邪ひいてると弱くなるものだ。思う事ぐらい許してほしい。口にはださないから、帰ってきたときにはまた元気に迎えるから、せめて思うことぐらいは、許してほしい。
それくらい、彼は私の支えなんだと実感した。

「リンク…」

そばにいて。
ガンガンと頭が割れそうな頭痛も、治まらない胃の収縮も唇を噛みしめて耐える。ふと、「血が出るからやめなよ」といって私の唇を撫でる彼の指の感触を思い出した。ついぼろぼろと涙があふれたが、きっと風邪のせいだ。内側から痛めつけてくる病魔をなんとか無視してもう一度眠りについた。



瞼のむこうが眩しい。そういえばカーテン開けっぱなしで寝てしまった。この村ではどうせ勝手知ったる人しかいないので構わないけれど、きっとまた部屋が冷えてしまっただろう。まだ少し気だるい体を起そうと腕に力を入れたが思うように体は起き上らなかった。まだ体が弱っているのかと思ったが違う。物理的に持ち上がらないのだ。瞼を開き上半身を少し持ち上げてみると丁度腰のあたりに重しがあった。私の腕より太いがっしりとした男の腕。それを辿ると蒼と目があった。

「おはよ」

私が想いを馳せていたその顔は、少し不機嫌そうに眉間に皺が寄っている。返事を返そうと思って口を開いたが声より先に咳が出た。それをみた彼はすぐに私の背中をさすってくれる。
「水、飲んで」
すでに用意してあったのか、すぐにコップが手渡され流されるままに口へ運んだ。こんなことをするより早く彼に言いたいことが沢山ある。いつ帰ってきたのか、怪我はしていないか、ちゃんとご飯食べているのか。空になったコップを渡し、すぐに口を開いたが声が出る前に目の前の胸に顔を押しつけられた。

「ちょっ…げほっ、リン…っ!」
「心配した」
低く、強く吐かれた言葉に息を飲む。背中にある大きな手が私を潰しちゃうんじゃないかっていうくらい力が込められた。

「帰ったら、コップは転がってるし、カーテンは開けっぱなしだし、…名無は熱出して息荒いし、辛そうな顔、してたし…」

リンクの腕にまた力が籠る。もう息が苦しい。そろそろホントに潰れてしまいそうだ。彼は自分にどれだけ力があるのかと私は彼ほど頑丈じゃないということを自覚してほしい。でも、あれほど待ち焦がれた彼が目の前にいる。それが嬉しくてつい言葉を飲みこんでしまった。

「俺のいないところで、泣かないで」

くしゃり、彼の手が私の髪を乱す。ごめんね、ありがとう。
本当は自分の事だけで精一杯な彼に私の心配までさせてしまった。きっと彼だって疲れてここに帰ってきたハズなのにいつもみたいに迎えられなかった自分に罪悪感を抱く。それでも、彼がこんなにも優しいからつい甘えてしまう。リンクの体温が、吐息が、鼓動が、愛おしい。
彼の背中へ腕を回すと心臓が満たされていく。まだ痛みの残る頭も穏やかじゃないお腹の底も、リンクがいれば気にならない。リンクの大きな指が涙で硬くなった睫毛と目尻をほぐすようにふにふにと撫でた。それがくすぐったくって、触れられていることが幸せで、ぎゅうぎゅうと頬を彼の胸に押し付ける。

「おかえり、リンク」
「ただいま。…ごめんね」

いいの、今リンクがいてくれるなら。貴方がいるだけで私は生きていける。






勇者の部屋にカーテンがあった気があまりしないので、主人公の部屋とか趣味でつけたとか補完をお願いします。すみますん、




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