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▼ 恋の伝染病


「こんにちは」
ドアを開けた先にいたのは緑色の服を着た勇者さんだった。自分より低い所にある青い目がいつもと変わらずに私の視線とぶつかる。
「いらっしゃい。今日はなにかご用事?」
「ううん…。遊びに来ただけ。もしかして都合が悪い…?」
私は自分の体を引いて彼を招きいれようとしたが彼はすぐに入ろうとせずドアの前でちょっとだけ佇んだ。それがまるで私が「そうねぇ」なんて返せばすぐに踵を返してしまいそうなほど不安げなものに見えたものだから私は思わず彼の手を握ってしまった。
「そんなことないよ」
そう笑うと彼も顔を綻ばせるものだから胸の奥がきゅっとした。なにかが刺さるような痛み。だけれどそれを手放したくない。私は彼の手を引いてリビングの椅子に座らせる。
「お茶を持ってくるから待ってて」
いつもより急ぎ足でダイニングまで行くとティーポットとお菓子を用意する。つくっておいたお菓子はなくなっていたから貰いものだけどちょっと良いお菓子を皿に乗せてリビングまで戻った。戻ってすぐに飛び込んでくる青い目。私と目が合うとふんわりと笑う。またきゅっと胸の奥を抓まれた。このお菓子、リンク好きかな。喜んでくれるといいけど。

「おまたせしました。どうぞ」
「ありがとう。あの…、ホントに都合は平気?」
「もちろん。それより遊びに来てくれたことが嬉しい」

そういうとリンクは照れたように頬を染める。歳下の彼は同い年の事比べると大人びているところが多々あるが、幼いところもたくさんありこうやって照れる仕草も年相応の幼さがあった。それが可愛らしくて私はよく頭を撫でるのだが彼はあんまり気に食わないらしい。

「今日は名無の手造りじゃないんだね」
サクっとクッキーをかじりながら言ったリンクは無意識だったようで言ったあと、すぐに目を見開いて慌てた。「いや、あの不満な訳じゃなくて、えっと、その…」でもそれが悪い意味じゃないって私もわかっていたから笑ったまま彼を見つめる。すると彼は気まずそうに視線を私から逸らした。

「そんなに気に入ってもらえてたんだ」

私が笑うと彼の長い耳の先まで真っ赤になった。私から外された視線がまた戻ってくる。眉尻を下げ困ったように彼は私を下から伺った。
「失礼なことを言ってごめんなさい…」
「いいえ。それより、私の作ったお菓子は気に入ってくれていた?」
「うん!とーっても好き!」

先程の落ち込んだ顔からほろりとこぼれ落ちそうな笑顔を見せるリンクに私の胸の奥がまた高鳴る。彼の子供っぽいところに触れるたび、本当のリンク自身を見ているようでなんだか幸せな気持ちになった。

「次は必ずお菓子を焼いておくね」
「え、あの、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだ…」

慌てたように手のひらを振るリンク。ころころと変わる表情が可愛らしい。そんな彼の頭を撫でると彼は手のひらを落ち着かせ、少し恥ずかしそうに私を見上げた。相変わらず頭を撫でるのは気に食わないらしい。でも、そんな拗ねた表情も可愛いから許してほしいな。

「私もそんなつもりじゃないよ。私、とっても嬉しいの」

リンクが喜ぶ姿を見るのが好きなの。だから、私が喜ばせられることが出来るなんて幸せ。そう言って笑うと彼は少しだけ間の抜けた顔をした。口の端についた食べカスを取ってあげようと頬へ手を動かしたが、その手が離れる前に彼の手が私の手を上から押さえつけた。不思議に思って彼の目を見つめるとその真剣な青に思わず息を飲む。

「…リンク…?」
「あの、ね。僕、あの、あの…!」

ぎゅっ、と彼の手のひらに力が籠る。その青は感情が高ぶっているのかうっすらと水が張って、ゆらゆらと不安げに揺れるものだから私も心臓が掴まれたように苦しくなった。どくどくと心音が大きくなる。手のひらを通してこの音が伝わってしまいそうだ。金色から覗く彼の長い耳は未だに赤く、それに連れるように彼の頬も赤い。そしてその熱がうつったみたいに私は頬と耳に熱を感じた。じんじんと霜焼けのように、熱い。
彼を見つめていることが、私の心臓を張り裂けそうにさせるというのに目を逸らすことが出来ない。縫いつけられたみたいにリンクのことを見つめていた。彼は唇までも震わせ、何度か息を吸っては吐き、ついに息を飲みこんだ。涙がこぼれそう。


「名無のことッ…、好きなんだ!」


ついに耐えられなくなってポロリと彼の瞳から落ちた涙は、私の手のひらに吸い込まれる。それがうつったみたいに私の瞳からも涙が落ちた。





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