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▼ 姫様と騎士と勇者

※黄昏の姫様に仕える女騎士。勇者が文字通り空気。ていうかいない。
※gdgd。
これのシリーズ。




裏通りにあるテルマの酒場へと足を運ぶ。まだ日の高いこの時間では客は少ない。

「やぁ、名無。今日は一人かい?」
「…いつも一人だ。再三言うが、姫様はお忍びでくるんだからな!あまり言いふらすなよ」
「わかってるよ。でも姫様がいる時がほとんどだろ」

ドアのところに立つ私をみてテルマは肩をすくめながら笑った。そう言われるとなにも言い返せない。こんな時、私は姫様に甘いと実感する。確かに私は何が起きても姫様を守りとおす自信を持ってお連れしているが警備が張り巡らされている城内と私一人が壁の城外では危険度がまるで違う。街の人に“姫様は城の外にいることが多い”なんて印象を持たれてしまえばそれこそ恰好の的だ。この国にもはみ出し者は少なからずいる。どの国でもそういうものが出るのは仕方ないがそいつらに餌をくれてやるほど優しくはない。

「姫様ももう少し大人しくしてくれればいいのだけれど…」
「何言ってんだい。あれがウチの姫さんのイイトコロ、だろ」
「それはそうだけど…」

ぐるりと店を回るが特に目立つところはない。いつも奥の席で盛り上がっている自警団も今日はシャッドが一人でコーヒー片手に本を読んでいるだけだ。

「なにか変わったことはあったか?」
「いいや、最近はめっきり大人しくなったよ」
「そうか。なら私はこれで失礼する。何も買わずにすまないな」
「いいや、今日も何か頼んで行っておくれよ」
「は?」

姫様と来た時は必ず何かしら頼んでいるが、一人で警邏に回っている時は違う。一つ一つの店で立ち止っていては城下町を回りきるのに時間を使いすぎる。それを彼女もわかってはいるし、普段ならすぐに帰してくれるというのに今日は何故かそういかなった。

「この後大事な仕事でもあれば無理は言わないんだけどさ。ちょっと私につきあってくれよ」
「まあ…、貴方がそういうなら…。珍しいな」

私はドアまで進めた足をまた引き戻しカウンターへと向かう。テルマは眉をさげ、少しだけ困ったような表情をしていた。先程は特に変わったことはないと言っていたが、何か思い出したのだろうか。それとも、また別の用件だろうか。


「これは、ハイラル騎士団へではなく、名無個人への話なんだけどさ…」

綺麗なグラスにミルクを注いでからテルマは私の方へ視線を移す。私個人への話?仕事中に私用な話はあまりしないようにしているが、そういえば最近は仕事以外にここへ来ることもなかったなと思いグラスを受け取った。客はいつもの定位置にポストマンと奥の席にシャッドのみ。二人とも私から離れているから気にしなければ、こちらの会話が聞こえることもないだろう。まあ、テルマだってもうずっとここの店主をやっている。情報の伝達方法ぐらい多種多様な彼女が口頭で伝えるようなことだから大したことではないだろう。

「なんかいい酒でも入ったのか?」
「アンタはいい酒が入っても興味ないだろ。…アンタに会いたいって言ってるやつがいるんだよ」
「…私に?それなら警邏してる時にでも捕まえればいいだろう。毎日決まった時間ではないが大体同じようなルートを回っている。城下町の人に聞けば――それこそ貴方に聞きでもすれば捕まるだろ」

1回や2回では難しいかもしれないが5回のうち1回くらいは会えるだろう。一番確実なのは城に来ることだが一般人ではなかなか入りづらいというのもある。あの緑色は何のためらいもなく入ってくるが。

グラスからテルマへ視線を戻せばまだあの困ったような顔。どうやらそれでは解決しないようなことらしい。


「アンタに会いたいだけじゃないんだよ。あの子にとって重要なのはその先さ」
「その先?私に何か頼みごとでもあるのか?」
「…まあ、近からず遠からず、ってところかね」

テルマは眉を寄せたまま笑った。そんなあいまいな話で私に一体どうしろというんだ。頼みごとと言われても住民の頼みは可能な範囲で応えている。ハイラル騎士団としてはもちろんだが私自身としても、だ。公私ともに騎士として、姫様に仕える者として、恥ずかしくないよう生きている。そのうえで、テルマがわざわざ私を呼びとめるまでのこととは一体なんなのだろうか。そんなに難しいことなのか?

「そんな難しい顔をさせるつもりじゃなかったんだけれど、そうね、私も変に呼びとめて悪かったよ」
「いや、別にそれは構わない…。テルマがそんな歯切れを悪くさせるのも珍しいな」
「なに私もおせっかい焼きでね。でもやっぱりこれはあまり私が出しゃばることじゃないと思うから本人に任せることにするよ」
「そう。まあ、私も頼まれごとはなるべく引きうけるようにしている。その子にも伝えてやってくれ」
「あぁ、そうするよ」

テルマの愁眉を開かせることは出来なかったが彼女がそれでいいというのなら私にはどうしようもない。落ち着きどころのない話しだったが、まあいいだろう。世間話に付き合ったぐらいのことだ。それに住民の小さな悩みも聞いてやることができなければ国を守る者として勤まらない。いつも何かと世話になっている彼女なら尚更だ。

「そうと、名無。話は変わるんだけれど」

店を出ようと椅子に手をかけたところでテルマがまた私に質問をかける。思わず椅子に座り直し彼女の表情を伺った。だが、今度は先程のような困った表情ではなくどことなく楽しそうな、…彼女のこういう表情が私に向いている時は大抵私が困る時だ。

「…なんだ」
「彼氏はできたのかい?」
「またその話か。今そんな話しをするつもりはない!」
「お、ついにできたのかい」
「できていないし、つくるつもりもない!今は騎士の仕事で手一杯だ。…それだけなら私は帰るぞ」

先程離した手をまた椅子にかけ立ち上がる。財布からミルク代のルピーをとり出したがテルマは私が引きとめたから、と受けとらなかった。

「じゃあ、次来た時にいい酒でも出してくれ」
受けとられなかったルピーをカウンターに置いてドアへと足を向ける。テルマが小さく溜息を吐いたのが聞こえた。

「アンタにはいい酒じゃなくて、ミルクの方がお似合いだよ。…そうだね、彼氏の愚痴でも零すようになったら出してやろうか」
「…私が酒を飲めるのはまだ当分先みたいだな」

店のドアノブに手をかける。暗い酒場の外から漏れる光は些か眩しく感じた。どうやらまだ日は高くいてくれているようだ。

「じゃあ、たまにはもう一つ。好きな異性のタイプは?」
「貴方も飽きない人だよ。そうだな…。私より強い人がいい」
「ははっ、それはなかなか難しいね」
「…またくるよ」

それだけ行って私は逃げるように店をでた。やはり、眩しい。明るい道から目を逸らすように腕時計を見れば、思っていたより時間が過ぎていた。手早く回って城に戻ろう。でないとまた姫様が飽きて城内を動き出す時間になってしまう。城内を歩きまわるだけならいいけれど隙あらば外に出ようとするからなあの姫様は…。




「だってさ。アンタも隠れるのがうまいね。王国の騎士がいるのに気付かれないように気配を消しておけるなんて」

テルマがため息交じりに下へ視線を動かすと置いてあった木箱から緑色が覗いた。それからもぞもぞと動いて全身が露わになる。

「ふはっ!…伊達に勇者やってないからね」
「その勇者さんにも捕まらないんだから、ウチの騎士さんもなかなかのもんだよ」
「ホントだよ全く…」

立ちあがって埃を叩いた緑はひょいっとカウンターを越えると先程まで名無が座っていた席へと腰を下ろす。彼女が置いて行ったルピーを指先でいじるとテルマに取り上げられた。

「で、勇者さんはこれからどうするんだい?」
「うーん、酒場のマスターにおせっかいまで焼かせちゃうくらいだし、まだまだ頑張らないとってとこ?」
「アンタも世界を救った勇者なら、女の子ひとりぐらいさっさと捕まえちゃいなよ」

それが出来ればこんな昼間っから酒場にいないんだけどね、なんて言いながらリンクは笑った。彼は彼女が警邏に回る時間をしっかり把握している。この世界を救う時に何度も走り回った街のことだ。調べるより早く覚えている。

「でも今回はなかなか良かったんじゃないかい?アンタならあの子より強いだろ」
「そうだね。でもそれより大きな壁がもっと手前にあるんだ」
「…姫様ね」

テルマは名無を引きとめたときのような困った顔で笑った。

「…またくるよ」
彼女が置いて行ったのと同じセリフを吐いて彼もまた立ちあがる。財布から同じようにミルク一杯分のルピーを置いて緑色の背中はドアの向こうへと消えた。



「見てるこっちがもどかしいよ」

マスターの独り言に誰も返しはしなかったが、周りの客も同じように笑っていた。




完全に自己満すみません。





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