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▼ シンクナイト


「寒いね」
名無は小さく呟いた。暖炉の火が音をたててはじける。ゆらゆらと揺れる炎のせいで俺の気持ちまで揺れそうになった。そんな不安をかき消すようにソファの上で繋がれた手の力を込める。

「あんまり遅くまで起きてると冷えるぞ」
「わかってる」

口ではそういっているのに彼女は動く気配がなく、そして俺自身も名無の手を離すことはなかった。ここから動かないのは手を握っているからじゃなく毛布が俺たちを縫いつけているんだと言い訳をして。

「名無、乾燥してない?」
「んー、大丈夫」
コテンと俺の方に寄り掛かった名無はそういうけれど唇がカサつきはじめてる。空いてる手の親指で名無の唇をなぞるとやっぱり少し硬くなっていた。名無、ともう一度名前を呼ぶが「大丈夫ー」とかえってくるだけで相変わらず動こうとしない。その代わり名無の手の力が強くなる。まだ離れたくない、なんて俺の都合のいい妄想だろうか。パチンと炭のはねる音が響いた。

もう一度、親指で唇を撫でると今度はカプリと指が咥えられる。唇から目の方へ視線を移すとばっちり名無と目があった。別に厭がっているようではない。ただの悪戯。だから俺もその悪戯につきあう事にした。噛まれた指をそのままにして名無の口端に少しだけ自分の唇を掠めさせる。そのとき、自分の唇もだいぶ乾いていることに気づいた。鼻先が名無にぶつかり、俺と名無の髪が混じる。口から手を離して名無の頬を引き寄せた。こつん、と二人のおでこがぶつかる。

「髪がくすぐったい」
俺の前髪が掠めるようで、目をぎゅっとつぶる名無。でも俺から離れようとする訳でもなくじっとしていた。だから、俺もそれ以上動かずただ、暖炉に紅く照らされる名無の顔を見ていた。重力に負けた髪が時間をかけながらゆっくりと顔の脇に落ちてゆく。動いていないようでだんだんと俺は名無の方に体重がかかっていた。無意識のうちに、そう、俺の意思じゃなかった。きっとこれも毛布のせい、なんて。都合のいい話だ。
じりじりと崩れ始めた態勢もある程度まで下がると一気に崩れ落ち名無の上に覆いかぶさる。その拍子で毛布はばさりと俺から落ちた。もう、毛布の言い訳は使えない。

「痛い」
「ごめん」
存外強くソファに転んだようで名無からは少し不満の声が上がる。でも、言葉のわりに名無は笑っていたから俺も反省はしない。代わりに繋いだ手の力に少しだけ力を込める。そしたら、それに応えるように名無も手の力を強めたから嬉しくなって少しだけ、笑った。

「リンク、あまり遅くまで起きてたら明日起きれないよ」
「わかってる」

似たような会話を少し前にもしなかったけ。それでも相変わらず俺たちは動こうとしなかった。
毛布がなくなったせいでさっきより肌寒く感じる。名無は大丈夫かな。さっきより毛布のかかる面積は少なくなってしまったけれど風邪をひかないだろうか。変わらず音を立てる暖炉はやけに遠く感じる。照らす赤は先程と変わりないように見えるのに。

「リンク」
寒さを埋めるように名無の体温を抱える。
「名無」
静かに触れる唇は二人ともさっきより硬くなっていた。






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