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▼ ヘタレなヤツ



※シャドウリンク



「シャドウさん…?」
「名前よんで誤魔化すなよ」
「誤魔化してるつもりは…」

ぐっと掴まれている手首に力が込められる。ぎしりとソファが鳴った。ソファ何だから二人分の体重ぐらい耐えなさいよ。このくらいで悲鳴を上げるな。
そんなどうでもいいことを考えてても目の前の顔が離れていく訳ではない。むしろだんだんと距離を詰めている。視界いっぱいにシャドウの顔。その端にちょっとだけ天井が見えた。一体なんでこんな状況に陥ってるんだ。いや、答えは知ってるんだけど。しかし認めたくはない。

「オレのシュークリーム食っただろ」
「…いや、だって」
「だってじゃなくて」
「…食べました」
「だからオレに食われろよ」
「その理屈は間違っている」

大体ここは私の家だ。私の家の冷蔵庫に入ってたものを私が食べて何がいけないのだ。まあ自分で買った訳じゃないからシャドウのだっていうのはわかっていたけれども。それにしてもシュークリーム一つでこんな怒るって乙女か。
そもそもシャドウだってこないだ勝手に私のエクレア食べちゃったじゃない。ちょっと楽しみにしてたのに。

「私のエクレアどうしてくれる」
「オレの分も用意してなかった名無が悪い」
「そんな横暴な」
「なんだよ。シャドウリンクさまに文句あんのかよ」
「大ありですとも」

だいたいあれは貰いものなんだ。買ってくるなら、いささか理不尽さを感じるがシャドウの分も買ってくるよ。身体をよじりどうにかこの状態から抜け出そうと試みる。しかしそれをシャドウは許さず余計に距離を詰めた。近い近い。

「シャドウ、近い」
「当たり前だろ。近づいてんだから」
「ごめんってば。今度買ってくるから」
「…そんなにオレに食われるのがいやなのか」
「シャドウの食べるって比喩的な意味じゃなくて本当に食べちゃいそうなんだもん」

大きいからか少し幼く感じるけれど、ぎらぎらした目は確かに魔物のそれで、シャドウとわかっているのに逃げ出したくなる。これは人間の本能だ。…たぶん。

「確かにオレは魔物だけどな…。…はぁ」

目の前で吐かれた溜息が頬を撫でる。そのままシャドウの顔が急接近してきたと思ったら私の顔の横にぼすんっと埋まった。顔に当たる髪がくすぐったい。
さっきの危険な状態は何とか回避したが手首が痛い。痕になりそうだ。シャドウはたまにこういうところで加減を知らないから困る。いや、知らないんじゃなくてしないだけなのかもしれないけど。


「シャドウ、腕がいた…ひっ」

何もしゃべらないシャドウに声をかけると手首を思いっきり引かれぐいっと体を横にされる。背中に体温。自分の胸元に両手首が掴まれた自分の腕。首元にかかる息がまた私をくすぐる。

「シャドウ?」
「…今日はこれで許してやる」

シャドウが私を許すより先に私がシャドウを許してないのだが。まぁ、もとからそんなに怒ってはいないから私も折れてやろう。シャドウの変わらない俺様な態度に苦笑が漏れる。さっきよりはしめつけが緩まった手首がぎゅっと胸元に寄せられた。後ろにうずまる顔も鼻先が私の首とぶつかるほどに近くなる。なんだろう、正面から迫られた時は早くどいてほしかったのに今はまんざらでもない自分がいた。


「いつか絶対食べてやるからな」

耳のすぐ後ろで呟かれた言葉に私は苦笑いをしたが、胸がどきどきと音を立てていたのもまた事実。
この気持ちは何だろう。




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多分ダーリンならあのままちゅーしちゃうんだけど、シャドウはヘタレ度が高いので出来ない。という我が家設定。あと甘えたさん。





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