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▼ 突拍子もない話



※漫画版子供リンク(姫川リンク)


「何やってるの?」
後ろからかけられた声に驚いて私は振り返った。目の前には緑色の服を着た金髪の男の子が立っている。歩み寄ってくる度にガチャガチャと彼の背中で剣と盾が音を立てた。
「…別に何も」
水を見ていただけ。そう付け足してから私は足元の草を蹴る。切れた細い葉がハラハラ落ちた。「ふぅん…」男の子はどこか不満げに口をとがらすと私の顔を覗き込む。彼は私より、ちょっとだけ、背が低かった。
綺麗な青い目が私を映す。当たり前だけど、睫毛まで金色で、青との対比が眩しいくらい綺麗だった。治りかけの傷がある肌も真っ白で、綺麗だった。まだソプラノな声も、尖った耳も、彼は私が見てきた中で一番、綺麗だった。
「ねぇ、キミいつもここにいるの?」
「そう。私はここにしかいない」
「ふぅん…。そっか」
そういうと彼は片手を顎に当てて、考え事をしているかのような仕草を取る。一体何がしたいんだろう。こんなところに来るなんて何か用があったのではないのだろうか。
「じゃあさ、俺、明日もここに来るよ」
「…?」
私は意味がわからなくて思わず小首を傾げた。それを見て彼は笑う。何がおかしいのだろう。
「明日、キミの名前を聞くね」
「…今じゃなくて?」
「うん。前にコッコお姉さんに聞いたんだ。こういうのは“順番が大事”なんだって」
こういうのってなんだろう。相変わらず訳のわからない話に私はついていけない。しかし彼はそんな私を気にせず話を進める。
「そしたら、その次の日に、俺とキスして?」
その言葉に私は口を思いっきり噤んで、半歩後ろに下がった。ど、どういう事なのだろう。いきなり、話が飛躍しすぎだ。流石に不思議に思ったのか彼は再び私の目を覗き込む。
「あれ?もしかして、イヤだった?」
私はなんて答えればいいのか分からなくて、声にならない何かを口の端から漏らすだけだった。彼はその綺麗な目で、私を映すものだから、私は何をすればいいのか分からなくなる。気を抜いたら呼吸をすることさえ忘れてしまいそうだ。
「あ、一個抜けてたか。その前に“好きです”っていうね。そしたら、俺とキスしよう?」
あれ、そしたらキスはまた次の日なのかな?なんて無邪気に笑う彼がなんとなく怖かった。でもその恐怖に飲まれてしまいたくもあった。なんだろう、この感じ。わからない。初めてだ。
「うーん…。やっぱりこれめんどくさいよ」
だんだんと顔に熱が集中してくる私のことなんかお構いなしに彼はどんどん話を進める。彼が大きく一歩踏み出してしまえば私と彼との距離はなくなってしまい、私が下がろうにも咄嗟に捕まえられた手のひらのせいで足までも動かなくなってしまった。
「ね、やっぱり今までの話はナシにして」
「…ナシ?」
「うん、そう。ナシ。だって明日や明後日まで待ってるなんて出来ないよ」
待つっていったい何を。彼は何故私にわかるように説明してくれないのだろうか。突然現れてスキだとかキスだとか突拍子もなさすぎる。私の心臓は何故かばくばくと音を立てて、耳の先まで熱が集中して、唇までもがうまく動かない。
「だからさ、今ここでキスしようよ」
彼の腕が私の肩を掴んだかと思うとそのまま力が込められて私はどさりと後ろに倒れこんだ。な、なんだ。一体何が起きてるんだ。わからない、わからないよ。
私の瞼がぱちぱちと動いてるのに彼はまっすぐに私を見つめているから、なんだか恥ずかしい。ゆっくりと近づく、その青い目に吸い込まれそうだ。視線を外そうにもそれが許されない。

触れたその唇も男の子なのに柔らかくて、心臓がぎゅうっと締め付けられた。
あぁ、なんてことだろう。私は彼の狂気に飲まれてしまったのかもしれない。涙がぽろぽろと溢れてくるのに彼の唇が離れてしまったことを寂しく感じている。もう一度、重ねてほしいと思っている。
「ね、やっぱり順番なんていらないよね」
私の涙を指ですくう彼に私は静かに頷いた。名前も知らない彼に捕えられた私はその後で彼に恋をしたのだった。





なんかよくわからないお話。ただ単に子リン迫られたかっただけなのかもしれない。
たぶん、きっと、おそらく、二人は初対面じゃないです。
ブログより再録。






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