2010/10/16 21:25
▽きらきらアカデミー(SS/NARUTO)





イルカ先生に日誌を提出すると「もう帰っていいぞ」とお許しが出たので教室に戻ることにした。日誌を受け取った先生が軽く頭を撫でてくれたのが少し照れくさくって私は早足で教員室を出る。早く帰らないと。長い廊下はオレンジ色に染まって私を焦らせた。教室のドアを開けると廊下と同じオレンジ色が教室いっぱいに充満している。当然のように染まる私の席。の斜め後ろの席に奈良くんが寝ていた。

私が帰ると、あとはイルカ先生か当直の先生が来るまでは誰も来ない。となると私が起こした方がいいよね。なんで誰も起こしてあげなかったんだろう。そういえば私が黒板を消している時も日誌を書いている時もいた気がする。気付かなかった私も私か。オレンジ色の光が奈良くんの髪を通りぬけて、茶色く透けていた。私はパタパタと自分の席を通りすぎる。たった一段違うだけなのに、黒板までの距離も高さもまったく違って見えた。
「奈良くん、奈良くん」
軽く肩を叩きながら声をかけてみるが、奈良くんの瞳は瞼に覆われたまま姿を現さない。男の子に触ることなんてあまりないからどうしても恥ずかしくて、勝手に腕がおどおどしてしまう。でも起こさないのもかわいそうだし…。
「奈良くん、起きて!」
さっきより強めに肩をゆすってみると、奈良くんが少し動いたのでパッと手をどける。すると、すぐにもぞもぞと彼の背中が動いて奈良くんは体を起こした。大きな欠伸を一つ。ぐぐっと背伸びをすると彼は私の方を向いた。
「ん、**か。授業終わったのか?」
「そんなのとっくだよ。もうみんな帰っちゃったから私と奈良くんで最後だよ」
奈良くんは私から目を逸らし、ぐるり視線だけで教室を見渡してから欠伸を噛み殺した。じわり、涙がにじむのが見える。「あとは、イルカ先生か当直の先生しかこないから起こした方がいいかな、って思ったんだけど…」そういうと奈良くんはまた私の方に視線を持ってくる。私が立っているのに対し、彼は座っているから見上げられていて、少し、いつもと違う気分になった。といっても、奈良くんと話をすることなんてあまりないし、いのちゃんと一緒にいるときにつられて少し話すくらい。奈良くんから話しかけてくることもないしなあ。
「じゃあ、**が起こしてくれなかったら母ちゃんに怒られてたな」
奈良くんは教科書が入ってないことを主張しているバックを持つと立ち上がって、階段を下りて行った。薄っぺらいバック…。奈良くんはポケットに手を入れたまま少しだけだるそうに歩く。キバくんとかサスケくんもそうだけどなんで男の子ってポケットに手を入れたまま歩くんだろう…。疑問に思ったまま見ていると急に奈良くんは立ち止り、片手をポケットから出した。
「あ…」
「サンキューな」
手をひらひらと振ってから呟いた奈良くんは、こちらに顔を向けないまままた歩き出しドアの向こうに消えていく。私は何故か急いで自分のカバンを掴むと一気に階段を駆け下りて走ってドアまで向かった。
パタン!
上履きの音が廊下に響く。目の前に奈良くんはもういない。ただ廊下の窓の向こうでオレンジ色に染まった木の葉が揺れていた。心臓がどきどきと音をたてる。
「なに、そんな急いでんだよ」
ふと隣から飛び込んできた声にびっくりして肩を弾ませた。「へっ?」反射的に横を向くと壁に背を預けて奈良くんが立っている。小首を傾げた奈良くんはいつものように少し眉間にしわを寄せていて私はちょっとだけ肩をすくめた。
「べ、別に…」
「ふぅん。なら構わねえけど。ほら、手だせ」
何が何だかわからないまま手を出すと奈良くんは、ん、と口の中で声を漏らし私の手の上に何かを置いた。
「チョウジがくれたやつだけどオレよりお前の方が好きだろ」
掌でコロンと小さく転がったのはかわいい飴玉だった。もしかして、渡すために待っててくれた、のかな。
「あ、ありがとう…!」
背を向けて歩いていく奈良くんに、思わず飴をぎゅっとにぎってお礼をいう。奈良くんはさっきと同じようにまたひらひらと手を振ってオレンジ色の廊下を歩いて行った。何故か私の心臓はまだどきどきとしたまま治まらない。ふわふわと揺れる奈良くんの髪の先はやっぱり茶色に透けていた。






昔、もう閉鎖してしまった自サイトで掲載していたもののリメイクです。最近鹿丸が再熱しているので書きなおしてみました。すごく仲良くして頂いた某方への捧げものでした。







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