2014/08/10 18:31
▽キスだって左利き!(時/SS)




彼の利き腕は、世間的に多いとされている右ではなく左だ。
剣を持つのも、フォークを持つのも、物を投げる時も、不意に伸びてくる腕も。いつも左側。
右利き用に作られたこの世界で彼の左側に並ぶとついぶつかってしまう事がある。その度に彼はごめんね、と謝った。そんなこと気にしなくてもいいのに。だから私は彼の右側に並ぶようになった。本当は毎日のように触れられる左側の方が好きなのだけれど。

「ねぇ、ミルクビン取ってもらってもいい?」
「ちょっとまってね」

私はミルクビンを掴むと彼のグラスを引き寄せ、空になったグラスへ注いでから彼に渡す。自分で注ぐつもりだったであろう彼はありがとう、と優しく笑って見せた。
右利きに溢れたこの世界だと左利きの人は知らず知らずストレスを感じ、早くに倒れてしまうとどこかで聞いた。そんなもの、彼には絶対味あわせたくない。私一人がどんなにじたばたしたところで左利き故のストレスを軽減させられるかなんて多寡が知れているけれどせめてもの自己満足だ。

「いつもありがとう」
「いえいえ」

ちゅっと、突然に奪われる唇。それだって、ほら左上から重なった。
すぐに離れた彼の表情は―自分でやったクセに―恥ずかしがっていて、照れ笑いをしているさまがとても愛らしい。やっぱり彼にはこの世の不平等なんて感じさせたくない。

「好き、だよ」

私には夢がある。それは、ちょっと変わった彼のもう片方の利き腕になること。





有名なアイドルグループ曲より。
最後の詞の解釈は、ちょっと違うかも。






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