2010/10/27 19:02
▽おもかげ(SS)


※ちょっと切ない。




あなたが帰ってくる夢を見た。変わらない穏やかな笑顔で私を思いっきり抱きしめてくれた。凄く幸せで、幸せで、やっと、やっとまた一緒にいられると思ったのに。目が覚めたとき視界に入ったのはいつの間にか見慣れた天井だった。むくりと体を起してベッドの上に座りなおしたが、やはり部屋には私しかいない。それもそうだ。彼が帰ってきたなんて私の夢の中の話なのだから。彼を見送ったのはもうどれくらい前のことだったか。毎日、彼のことを考えているせいかすでに感覚がマヒしていてわからない。最初のうちは普段通りに生活していたのにある日、どうしても恋しくなって勝手に彼の部屋に入り込んだ。彼の匂いが染み付いたシーツと枕を抱きしめていると少しだけ慰められて離れなくなってしまったのも、もう大分前のことに感じる。今ではすっかり彼の匂いなんてなくなってしまったけど、ここから離れたくはなかった。というよりここ以上に彼を感じられるものや場所が見つからない。さらり、シーツを撫でてみたが冷たさが指先に伝わるだけだった。会いたい、会いたいな。ぼすんと体を倒しまたシーツに沈む。すっかり私の匂いが染みついた枕はもう私を慰めてはくれない。彼と同じシャンプーを使っているのに何故か彼と同じ香りはしなかった。勝手に拝借した彼のTシャツもすでに誰のものか主張するのをやめている。ぼろりぼろりと落ちてくる涙ももう何回シーツに染み込んだかわからない。喉を震わしてしゃくりあげる現象も少し慣れてきた。なのに、なのに、あなたがいない生活に慣れない。
「会いたい、よ」
いくら彼を呼んでも、顔を思い出してみても、涙が止まることはなかった。













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