補修3日目。昨日は変なツボに入ってしまったせいで思いのほかペースが落ちてしまった。今日こそは、と自分自身を奮い立たせるも昨日の名字の様子を思い浮かべては頬が緩んでいるのが自分でも分かった。



「阿部〜、何ニヤついてんの?何か気持ち悪いよ?」
「うっせーな、ニヤついてなんかねぇよ」
「嘘!?今、絶対ニヤついてたよ?ね?花井?」
「ああ、ぜってーニヤついてた。どうした阿部?熱でもあんのか?」



昼休憩中、今日は週に一度の幹部会で主将である花井、副主将である栄口と共に普段あまり人が通らない屋上へ続く階段に座り弁当を頬張る。二人の言葉を無視し、弁当のおかずを頬張る。



「それより、幹部会するんじゃねぇのかよ。」
「ああ、そうだな。とりあえず、来週に控えたテストの勉強の進み具合だが…」
「俺んとこは、ぼちぼちみんないい感じに進められてるよ〜。」
「阿部は担当教科、数学だよな?」
「ああ……」
「数学っていうと名字の進み具合はどうだ?」
「ぶふっ……」



……やべぇ、花井たちの目の前で思いっきり吹き出しちまった。花井と栄口はまるで目ん玉ひん剥いたかのように見開いて俺を見る。そりゃそうだ、未だかつてここまで取り乱したことなんてねぇよ…



「ねぇ、本当に阿部どうしちゃったのさ」
「名字となんかあったんだろ、絶対」
「…いや、あいつの慌てた様子を思い浮かべたら思わず思い出し笑いしちまった、わりぃ」
「別に良いけど、それより何があったの?」



口元を拭いながら栄口を見ると、何故か嬉しそうにこちらを見てくる。何が楽しいんだ、こいつは……



「別に…、ただただ本人が危機感全くない状態で、教師ですらお手上げ状態の名字をどうしたもんかなぁ…って悩んでんだよ、俺は」
「え、そんなヤバいの?名字って」
「そーだよ、三橋や田島より馬鹿だぜあいつ」
「想像つかないんですけど…篠岡に負けず劣らずな野球知識持っておいて?」
「だろ?まさかあそこまでアホだとは俺も思わなかったぜ」



残りの弁当をかき込んで、空になった弁当箱を片付ける。本当、どうしていいか分かんねぇよな、あいつ。




.




「え、こんなの習ってません…」
「数学のノート見せてみろよ。ほら、ここに書いてあるぞおんなじ式が」
「…あれぇ?全然記憶にないんですが…」
「あのな、板書ってただ写すだけじゃなくてちゃんと理解しながら書かねぇとまったく意味ねぇぞ」
「…考えてると次々黒板消されちゃって、とりあえず写してるんですぅ…」
「それで、復習はしてるのかよ」
「それが…自分で書いたのに何書いてあるのかさっぱりで…てへ」



”てへ”……じゃねーーーっよ!!!
女なのに思わず殴りたくなる拳を机の下に隠して、なんとか耐える。三橋で鍛えられた「我慢する」が、こんなところで活きてくるとは……



「でも、阿部先輩に教えてもらって段々分かるようになってきました!先輩、テスト終わってもずっと教えてください!」
「……やだよ、俺だって自分の勉強する時間確保してぇもん」
「そんなぁ!見捨てないでくださいよ〜!!」



大学受験を見据え、コツコツ勉強もしなければいけないのに、面倒なんて見きれねぇ。……でも、テストが終わったらこの時間も無くなってしまうと思うと、それはそれでなんだか寂しいというか、つまんねぇというか……



「…じゃあ、西広先輩に色々教えてもらうしか無いかぁ…」
「……西広は、ただでさえ他の奴らの勉強まで見てるんだ、アイツにばっか負担増やすんじゃねーよ」
「だったら、私は誰に勉強を教えてもらえば良いんでしょうか〜!!」
「…しゃーねーな、俺が見てやるよお前の勉強」
「え?!先輩さっきと真逆のこと言ってますよ?!」
「ウルセェ、さっさと問題解かねーと帰っちまうぞ」
「わーわーわー!解きます!解きます!!」



自分でも「何言ってんだ、俺?」って自問したけど、答えなんて分かるはずが無かった。何となく、この時間が俺じゃなくて西広とだったら……って考えたら、少しモヤッとしただけだ。



「…モヤ?」
「え、なんですか?先輩」
「何でもねぇ」



心の中で呟いたつもりが、思わず口から漏れてしまっていた。このモヤモヤの正体がなんなのか、分かるようで分からない。いや、とっくに分かっているのかもしれない。

ふと、問題を解くのに必死になっている名字に目線を送る。今まであまり意識していなかったけど、長いまつ毛に綺麗な肌。耳に掛けられた髪の毛は艶があってサラサラで……



「え…っと、先輩…?その、そんな風に髪の毛触られると…集中出来ないんですが…」
「ッ…わりぃ」



今度は見ているだけでなく、無意識に手が伸びて声を掛けられ意識を戻した時には自分の手が名字の髪の毛を掬っていた。

ドッ、と心臓が大きく跳ね上がり、カッ!と頭と顔に熱が集まったような気がした。幸いノートに目を向けている名字には見られていない。バレないように、目線を外して静かに深呼吸した。



十中八九、これは…
いや、でももしかしたら違うかもしれない。というか、違ってくれと。認めたくない自分がいた。認めてしまったら、止められなくなってしまう気がして。

この時ばかりは、自分の仮定など間違いであってくれと願った。だが、




俺が間違えたことがあったか?




(自分の気持ちには、自分が一番よく理解している)
(そこに今まで間違いなど、無かった)
(とすれば、やはり…この胸の高鳴りは、)



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