今年も暑苦しい夏がやってきた。夏の大会に向けて着々と練習を重ねる俺たち西浦高校野球部。だが、野球練習以外にも積み重ねなければならねぇ課題があった。



「みんな、勉強してる?」



ある日の練習終わりのMTで、ふと夏の試験の話題になった。毎年毎年、決まって三橋と田島は赤点ぎりぎりを回避してきていた。しかし、それも野球部勉強会で必死でほかの部員がつきっきり勉強をしていたからだ。

モモカンの鋭い視線を浴び、委縮してしまっている三橋と田島。そんな中もう一人三橋と田島と同じように委縮してしまっている人物がいた。

「名字ちゃん、どうしたの?」
「ひあっ!ち、千代先輩っ…!」



篠岡が声をかけたのは、今年の春に新しく入ってきた1年生マネージャーの名字名前。名字も野球の知識こそ篠岡に匹敵するというのに、勉学に至ってはまるっきりダメな様子。名字も三橋たちと同じく、夏の試験はかなりヤバいらしい…

三橋と田島と名前をよそに盛大なため息をつくモモカンであった。




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部活後、集まったのは主将副主将の花井・俺・栄口。そして今回面倒を見る三橋と田島と名前の計6人で集まって勉強会を開いた。それぞれ得意分野に分かれて花井は三橋に英語を、俺は名前に数学を、栄口は田島に現国を教えていた。



「でも、まさかお前数学がダメだったとはな。」
「得意そうに見えたでしょうか…」
「お前の野球の知識量知ってたらな、覚えることは得意なんだと思ってたぜ」
「ですから、人の名前覚えたり、単語覚えたりするのは得意なんです。だけど、数学だけは…」
「数学だって公式覚えて計算するだけじゃねーか」
「だって勝手に点P動いたり、頑なに一緒に出掛けない兄弟がいたりするじゃないですか…!!」



どうやら名字は、公式は覚えていても読解力と応用がダメなことに気づいた。数学は理屈じゃねぇんだよな。覚えてやるしかねぇんだ。それがこいつに理解できるか…



「まぁ、いいや。今回のテスト範囲で行くと…ここか。」
「今回のテスト範囲広すぎですし、鬼です鬼。」
「つべこべ言ってねーで1個ずつやってくぞー」
「ここにも、鬼が…」
「なんか言ったか―?」
「い、いえ!なんでもありません先輩っ!」



範囲最初のページからひとつずつ丁寧に教え込んでいく。この辺、去年三橋と田島にも同じ説明してやったなー。躓くところは同じなんだな。その頃のことを思い出し、俺は同じように名字にも説明をしていく。

しかし…



「と、まぁこういう計算でこの答えを導ける。分かったか?」
「…………」
「おい。分かったのか?」
「…全然わかりません」
「はぁっ!?」
「ひ、ひぃっ!!」



俺の声に驚く名字と、何故か三橋。
目の前は軽く涙目で、何故かとなりの三橋も花井に英語を教えてもらいながらこちらをちらちらと見てはびくびくしたような様子。そんな三橋と名字の様子を見た花井は軽くため息をついた。



「阿部。いちいちそんな大きな声出すなよ。名字が怯えてるし、それに三橋だってちっとも集中できてねぇだろ。」
「いやいやいや。名字の理解力のなさを俺のせいにするな。それに三橋も花井に集中しろ。」
「あ、は、はいぃっ…!」



はぁ、とため息をついて名字の方に向き直ると、名字は先ほどの問題を解きなおしていた。しかし、同じところで間違えている。



「おい、そこ違うぞ」
「(ビクッ…)え、と…」
「だから、そこは4じゃなくて6だって」
「ふぇ…は、はい…・」
「名字、なんでここが4じゃなくて6なのか分かるか?」



間違いだけ指摘していては何も意味がない。きっちり名字が理解をして計算しなければ、何も意味がない。そう問いかけると名字は首を横に振ったあと、おそるおそる口を開いてこういった。



「あ、阿部先輩が、数学は理屈じゃなくて、覚えこめ!って言ってたから…その…」



何かがぷつっと切れたような音が頭の中で聞こえた気がした。





教えれば理解できるのか?




(追加補習な、名字)
(は、はひぃっ…!)

(完全に阿部に対して怯え切ってる…三橋と同じだな)







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