『ボク、ずっと待ってるよ。また、ナマエに会えること』




…また、夢の中で呼び掛けられている。小さな男の子のような…
姿形は見えない。声だけが聞こえる。聞いたことの無い声なのに、何故か泣きたくなるほど懐かしくて…

私も、ずっとあなたに会いたくて……───



「ナマエ、ナマエ!」
「っは……、」
「どうした?大丈夫か?」
「ユーリ……うん、大丈夫…」



名前を呼ばれて目を覚ませば、心配そうな顔をしたユーリが私の顔をのぞきこんでいた。心臓がドキドキして、額には汗が滲み出ていた。



「やけに寝坊助だと思って家の前まで来てみたら魘されてたみたいだったから、勝手に入ったぞ」
「…え?!今何時?」
「昼前」
「皆と集合するのって…」
「丁度今。家の外でみんな待ってんぞ」



皆が、私を、待っている!!
普段はこんなことないのにどうして約束がある日に限ってこんな事…!急いでベッドから飛び起きて支度を始める。今までこんなに寝てたこと無かったのに



「みんな適当に時間潰してるからそんな慌てるなよ。あんま急ぐと転ぶぞー……っと!!」
「きゃあ!!」



ユーリの助言も虚しく椅子に足を引っ掛けて、転びそうになる。間一髪、ユーリが私の体を受け止めてくれたおかげで床に倒れる事は免れた。



「ったく。だから慌てんなって言っただろ」
「ご、ごめん…」
「ゆっくりで良いからあんま走り回るなよ」
「は、はい…」



体をゆっくり起こしてくれ、頭を優しく撫でてくれる。その一連の動作があまりにスマートで、いちいちドキドキしてしまう。

…そういえば、昨日ユーリに好きって伝えたんだっけ…

昨日の出来事を思い出して思わず顔を手で覆う。ユーリも同じなはずなのにどうしてこの人こんなに余裕なの?恥ずかしさはないの?!



「慌てるなとは言ったけどボーッとする時間もねぇからな」
「は、はい!すみません!」
「何謝ってんだよ」



可笑しそうに笑うユーリの顔に少しときめいて、私も釣られて顔が緩んだ。




.




「四精霊に聞いてみても、この聖核の元の始祖の隷長の存在は知らないみたいです…」
「バウルに聞いてみても、知らないみたいだわ」
「うーん、始祖の隷長たちが何か知ってるかと思ったけど全滅か…」



エステルは四精霊に、ジュディスはバウルにそれぞれ尋ねてくれたみたいだけどどちらも知らないとの事。精霊や始祖の隷長たちが知らないとなるといよいよ手がかりが無くなってきた。進んだと思えばまたもや足止めを食らう。リタが腕を組んで悩む仕草をしているのを見るとなんだか申し訳なくなってくる。



「そういえば、カロルはどうしたんだい?」
「ちびっ子なら今朝おっさんに呼び出されてそのままダングレストに戻ってったわ。ちびっ子がいたところで何も解決しないからどーでもいいわ」



たしかに朝から姿が見えないと思っていたらどうやらギルドの運営で少し人が足らないとかで、早朝レイヴンに連れられて行ってしまったようだ。色々あってきちんとお礼も言えてなかったから、次会った時はまたきちんとお礼言わなきゃ。



「ヨーデルにもう少し手掛かりになるものが引き継がれていないかもう一度聞いてみます」
「忙しいのにごめんなさい、エステル…」
「いえ!友人のためですから!」



副帝とはいえ、エステルも忙しい身なのに…私も何か捻り出せる記憶は無いか…夢で見た父親とのやり取りを頭の中で思い出す。

その唸った姿に何かを思ったのか、ユーリがボソッと呟いた。



「そういやぁ、朝唸ってたのはなにか夢でも見てたのか?」
「朝…夢……あぁ!!」
「突然大声出さないでよ!びっくりするじゃない!!」
「ごめんリタ…」



ユーリに言われるまですっかり忘れていた。今朝見た夢のことを。



「で、なんなのよ。夢ってのは」
「そう、夢でね…」



姿形は分からないけど、声だけはハッキリと聞こえたこと。小さな男の子のような、可愛らしい声をしていたこと。曖昧な内容だけどきっと何も手がかりが無い今の状況からは少し進展があると期待して。



「…まぁ、何も無いよりはマシ…って感じね」
「クリティア族でも無いのにナギーグみたいなことが出来るのね」
「ナギー…?」
「そこは気にしなくていいから。エステルのような満月の子だって所の方が重要よ」



やっぱり姿が分からないと皆で共有するのは難しいな…どうにか声を真似して出せたらいいのにな…

なんて、しょうもないことを考えてた私の脳内に再び夢の中の男の声が呼び掛けてきた。




『月の光がいちばん綺麗な日に』



「月の光がいちばん綺麗な日…?」
「何か分かったのかい?」



脳内に聞こえた言葉をそのまま口に出すと僅かな声を拾ってくれたフレンが私にそう問いかけた。



「月の光がいちばん綺麗と言ったら満月でしょうか?」
「満月の日に何か分かるのかしら…」
「月に関係のある始祖の隷長だったのかしらね」
「何とも微妙な所ね。これと言って確信出来るものもないし」
「とりあえず満月になりゃあ少しはまた何か分かるかも知れねぇって事だな」
「満月まではあと3日ほどだね。それまでにまた何かわかったことがあればまた集まって相談しよう」



これ以上はここで話していても埒が明かない。分からないものは分からない、なら聞こえてきた声の通り、満月の日まで待ってみることに。



「ナマエも、何か分かったらまた教えてちょうだい」
「うん、ありがとうリタ」



月の光を目指して

prev | next

list
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -