「うわぁ、ここが…」
「ああ、ダングレストだ。通称ギルドの巣窟」
「ユーリ曰く、悪党の溜まり場ね」
「だからぁ、それギルドに対する偏見だってば!」



下町よりも騒がしくて活気のあるここは、まるで町全体がお祭り会場のような熱気に溢れている。そんな中で、一際体の小さい男の子が私たちに向かって走ってくる。



「お出迎えご苦労さん、首領ボス
「え…!?この子が、首領ボス?!」
「なに?僕が首領ボスじゃダメなの?」
「いやぁ…アハハ」



私たちを出迎えてくれたのは、少し不機嫌そうな首領ボスと呼ばれた少年だった。




.




「へぇ、君がユーリのお嫁さ…イダッ!ちょ、いきなり何するのユーリ!!」
「誰がお嫁さんだって?こいつはただの幼馴染だっつの」
「あら、カロル鋭いじゃない」
「だからちげっての」
「アハハ…下町出身の"ユーリのただの幼馴染"、ナマエです」
「僕、凛々の明星の首領のカロル・カペル!よろしくね!」
「何怒ってんだあいつ…」



"ただの幼馴染"であるユーリには目もくれず、目の前のカロルくんと笑顔で握手する。約10個も下のまだまだ子供の手のそれは、どうにもギルドの首領を務めているには思えないほど、小さな手だった。



「んで、オレを呼び出した用件を聞かせてくれるのか?カロル先生」
「あ、うん。実は結界魔導器が勝手に動き出したんだ」
「動き出した?魔核はもう無いんじゃねえのか?」
「うん。星喰みをやっつけた時に全ての魔核は精霊にしたもんね。ダングレストのどの魔導器にだって魔核は残ってないよ。もちろん、結界魔導器にも」
「魔核が無くても勝手に動き出した、としか考えられないわね」
「あら、リタ。あなたもカロルに呼ばれたの?」



リタ、と呼ばれた茶髪の少女が私たちの会話に混ざってきた。魔導器の事はあまり詳しく無いんだけど、確か下町の水道魔導器も魔核を盗まれたから壊れちゃったんだよね…?



「私はこんなガキんちょに呼ばれたくらいじゃ動かないわよ。ギルドと騎士団の両方から魔導器調査の依頼が来てるのよ。私には全ての町の結界魔導器を調べろってね」
「また人使いが荒いな、全てのだなんて」
「全くよ!諸経費もろもろふんだくってやんだから!」



「なんだか、私には話が難しくてよくわかんないや…ラピードは分かる?」
「クァ…」
「大きな欠伸…」



みんなから一歩引いたところからユーリ達の話を聞いていた。その間、ラピードも退屈そうにしていたから隣にしゃがみこんで彼の頭を撫でてやると、大きな欠伸をひとつもらした。




.




「あの、リタさん…」
「…何?」
「私、ちょっと理由があってユーリと一緒にいるナマエって言います」
「ああ、ユーリから聞いてるわ。私は、リタ。よろしく」
「は、はい…」



話が一段落したところで横からリタさんに話し掛けて自己紹介するもあっさり話が終わってしまった。



「ま、あれでもアイツ丸くなった方なんだぜ。オレらに会う前はもっと酷かったぞ」
「酷いのはそっちでしょ?!初対面の人間を勝手に盗人扱いして!」
「ユーリ?!」
「仕方ねぇだろ!下町の魔核を盗んだヤツの名前がモルディオって偽情報掴まされてたんだからよ」



確かにその名前は私もハンクスさんから聞いていたけど…名前が同じなだけで犯人扱いするユーリもユーリだよ…何処へ行ってもユーリは変わらず問題児なのだと、呆れてため息が盛大に漏れた。



「ユーリがごめんなさい…」
「良いのよ、過去の事だし。それより、アンタ」
「は、はい!」
「その…リタ"さん"っての…辞めてくれる?」
「え?」



リタさんの顔を見るとどうやら赤くなって恥ずかしがっているよう。さっきまでサバサバしていたのに一気に可愛らしい少女になったみたいだった。



「確かに誰もリタさんなんて呼ばないもんな」
「そうよ、あとジュディスさんやカロルくんもやめなさい」
「え、それは本人に聞いてみないと…」
「アイツらだってきっと変な感じしてるわよ。誰もそんな風に呼ばないし」
「それじゃあ…リタ。…でいいですか?」
「それで良いわ。あと、変に敬語とか使わなくて良いから…」
「敬語使われるのはエステルの特権、てか?」
「そんなんじゃないわよ!!」
「分かりまし…分かった、リタ。これからもよろしくね」
「よろしく…」



なんだか前よりもグッと距離が縮まったようでなんだか嬉しくなってリタに笑いかけるとリタは更に顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

新たな旅の仲間が増えて、少しずつ楽しくなってきた。



夕日が傾く町

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