リンと友達になった日は忘れない。

「……俺は、悪魔なんかじゃない…」
「じゃあ、私はそれを信じますね」

母さんと弟が死んだ日の、本当の記憶を忘れないように自分に言い聞かせてきた言葉を、初めてなんでもないことのように肯定された日だからだ。
リンは、「君以外その日のことを、本当に知ってて言ってるわけじゃないから」とか言っていたが、俺はリンみたいに言ってくれる奴がこの冷たい場所にいてくれて良かったと本当に思った。ずっと友達でいたかった。
だから俺は自分の目指す夢を話したし、夢がないっていうリンに、シスターをすすめた。きっとリンみたいに穏やかな奴なら、きっと向いてる。それに、リンがシスターで、俺が消防官になったら、ここを出ても友達でいれると思ったんだ。
……けど、リンは研究所からいなくなった。
最初は体が弱いせいで姿を見なくなることが2年前にもあったりしたから、それかもしれないと思ったが、ここ最近は元気だったから、急にという不安もあった。
耐えきれなくなって大人たちに「リンは?」と聞いたら、リンは灰島社員の家に引き取られたのだと言われた。

「優しい人に引き取られたから、彼女の将来は心配する必要なんてない。きっと幸せになるさ」

大人たちはみんな、そんなことを言っていた。
でも俺は、リンにも初めて家族ができたんだろうことを喜べばいいのか、こんな冷たい場所にいる大人の1人に引き取られて元気にできるのか心配するべきか、わからなかった。
だって俺は、2年前に1度だけ見てしまったことがある。
あれは、リンが階段から落ちたとかいう怪我から回復した頃だった。

「リン!怪我したって聞いたけど大丈夫なのか?」
「うん、もう平気です」

いつものように笑ったリンと連れ立って、大人たちの視線を無視しながら話し、廊下を歩いていると、一際ぞくりとした寒くなるような視線を感じた。
なんだ、と視線の先にあるガラス越しの部屋の中を見ようとすると、大人たちが止めに入るより早くリンが「だめ!」と俺のうでを両手で強く握って止めた。

「リン…?」
「…ごめん。でも、早く行きましょう?」
「けど……お前、最近調子壊すのになにか関係あるのか…?」
「……シンラ、お願い。何も言わないでください」

「そんなわけにいかない!」と言おうとした俺は気づいてしまって、それ以上何も言えなかった。
いつも穏やかなリンの笑顔が青ざめ、俺を掴む腕が震えているのを。
そんな姿に、俺は「…本当に困った時はヒーローの俺を呼べよ」としか言えなかった。

「(……どんな時もちゃんと助けられるヒーローになったら、またリンに会えっかな)」

end
いつか、君にとってもHEROに
前 / 次