06
「ここが私たちの部屋だよ」
「わあ…結構広いんですね」

ペチカに寮内の談話室や食堂など、あちこちを案内してもらい、最後にたどり着いた自室に入れば、中には2段ベッドと2人いても狭いと感じることはなさそうな感じだった。

「学校から消防官目指す女子ってやっぱり少ないからね。少しでも増えるよう、環境に力入れてるんじゃない?」
「なるほど…」

たしかに今日1日、全体的に女の子を校内で見かけることは少なかった。
思い返しながら相槌を打てば、「まあ、私たちからしたらありがたいけど」とペチカは悪戯っぽく笑った。

「あ、ベッドさ、私今上使ってるんだけどリンは下で大丈夫だった?変わる?」
「あ、私は下でかまわないですよ」
「そっか、良かった。でもルームメイトがきてくれて嬉しいよ。1人じゃ一緒に夜話したりもできないしさ。これからほんとよろしくね!」

リンとは仲良く出来そう!と笑って手を改めて差し出してくれたペチカに、「私の方こそ」と自然に手を握り返せた。

***

「…ふう…(今日はさすがに疲れちゃったな…)」

来る前にちょっとした理由で無理やり切ってしまった髪を整えたり、荷物の整理や、明日の準備なんかをしているうちにその日の消灯時間はきた。
上のベッドの板を見上げて、寝転がる。ぬいぐるみなんか持ってくるのもと思って、全てあの家のものを置いてきてしまったから、疲れているのに、握るものがなくて落ち着かない。
それに──……

「(ひとりで寝るの、何年ぶりだろう…)」

いつも、私を引き取ったあの人の体温が隣にあった。ぬいぐるみのように抱きしめられて、息遣いを聞きながら眠りについていた。
でも、ずっとそれが怖くて、ずっと離れたかった。だから、寂しいなんてはずはない。本当に、離れられてよかったとも思っている。
なのに、なんでだろう。
1人になった途端、一緒にいた夜を思い出してしまうのは。

「…まだ一人で寝るのに慣れてないから…きっと、それだけです…」

帰りたいなんて思っていない。あの人からの痛みを伴う愛情を恋しいなんて、思っているはずがない。私はあの人に同じ愛情を返せはしなかったんだから。
全部眠って忘れよう。シーツを掴んで頭まですっぽり被って目を瞑る。

『きっとすぐ寂しくなって後悔する』

…私を引き留めようとしたあの人の言葉が、本当であるはずがないのだから。

next


prev next

bkm