05
「あれ、悪魔のシンラくんが噂のイケメン女子編入生の燐 火風ちゃんと一緒にいるとは…意外な組み合わせ」

女子寮の前で遭遇した女の子は、私とシンラを目を丸くしながら見比べて、そんな第一声を上げた。
その言葉に少し、むっとしたけど、それより早くシンラが彼女の方に怒るというより、呆れたような顔で歩み寄った。

「悪魔って呼ぶなって言っただろ、ペチカ」
「ごめんごめん。冗談だって!いつもシンラって、大体オグン以外と話してるとこ見ないから意外も意外で」
「お前…ほんとずけずけ言うよな」
「…シンラ、お友達ですか?」

軽い感じで言い合う二人を見て、おずおずと話しかければ、2人とも私の存在を思い出したらしく同時に私を見た。

「ああ、こいつは俺と同じクラスの女子の…」
「ペチカ・ウォッカだよ!ペチカって呼んで、今日から同じ部屋になる仲だしさ」
「お、同じ部屋ですか?」
「そ。いわゆるルームメイトってやつだよ。だから案内してあげようと思って待ってたんだー。よろしく!」

にっ、と明るそうな表情で笑って、手を出してくる姿に戸惑いつつ、先程まで彼女に悪魔と呼ばれていたシンラをちらりと見たら「こいつは嫌なやつじゃねーから、大丈夫だ」とチャームポイントとも言える、ぎざぎざの歯を見せながら笑っていた。
その姿と言葉に、嫌な冗談を言われても怒らずに流せるような、対等に接してくれる相手なんだなと少し安心して、ペチカと名乗った彼女の手をゆっくりと握った。

「よろしくお願いします、ペチカさん」
「シンラは呼び捨てなのに私はさん付けなんて距離感あるな〜」
「リンと俺は、昔からの友達だからな」
「え〜なにそれずるーい!私も呼び捨てでいいよ、リン!私、さんなんて柄じゃないし!」
「わ、わかりました。ペチカ」

ぐっと顔を近づけてきた彼女の勢いに負けて頷けば、機嫌よさそうに彼女は笑った。

「それじゃ、部屋にエスコートしてあげる。寮は男子禁制だから、シンラはここまでだしね」
「そうなんですか?」
「へ?だってそういうもんでしょ?お互い家族でもない年頃の男女なんだから、一つ屋根の下で共同生活なんてできないって」
「変な言い方すんなよな」
「わあお、シンラったら思春期〜」
「お前もだろ!」

…やっぱりあの人は、私を家族にはしてくれなかったけど、保護者ということにしておいた方がよさそう。
2人の反応を見ながら思考を胸の中に留めて、「それもそうですよね」となんでもないように2人に笑い返した。やっぱり、今までのあの人と暮らしてきた生活はおかしかったんだ。私は、間違ってなんかなかった。

「じゃあ、シンラ…また明日」
「ん、またな。リン、ペチカと同部屋が嫌だったら変えてもらえよ」
「ちょっとシンラ〜!?失敬しちゃうなあ!」

二人のやりとりが面白くて、自然と笑い声が溢れる。息を殺して罵倒や罰に怯える必要もなく、「愛している」と痛めつけられることもない。
ただ、穏やかに流れる日々を過ごす。当たり前でも、なにより尊い人生というのを、私はようやく手に入れられたんだと思った。補助具の杖を、想いを噛み締めるようにぎゅっと握りしめる。

「(なんて、幸せなんでしょう)」

これ以上は求めないから、と思うくらいに。

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bkm