03
「アーサーお前、朝に挨拶してたのくらい見ただろ!編入してきたリンだよ」
「朝……ああ、外の電線にのっているグリフォンの数を数えていたから何も覚えてなかった」
「雀だろそれ!随分小さいグリフォンがいたもんだな……リン、ごめんな。こういうやつなんだって諦めてくれ」

いや諦める云々以前に、なんの話をしているのかもわからないのですが…あ、そこも含めて諦めた方がいいということなのか。
オグンの呆れたような困ったような顔を見て、なんとなく口に出す前に理解した。
アーサー君はこちらの気持ちをしってか知らずか「編入生か…」と1人で納得したように顎に手を当てて頷いて、再び私を見た。

「編入生、改めて紹介しよう。俺はアーサー・ボイル。騎士だ」
「え、ええと…私は燐・火風です。よろしくお願いしますね、ボイル君」

騎士だなんて、映画や本の設定ぐらいでしか見た事がない名称ではあるけれど、外の子はこんな感じの子もいるものなのかもしれない。それに、ペースを完全に持って行かれてしまっている。それなら話を進めるには、このペースに流されてしまった方がいいのだろうと自己紹介を返した。

「リンか。騎士に対して礼儀正しいのはいいが、そう畏まるな。アーサーでいいぞ」
「あ、ありがとうございます…アーサー君」
「うむ」

ちょっとだけ言い方に、もや…としたような気持ちを飲み込んで軽く会釈をした。
悪い子じゃないんだろうけど、印象的には、もう少し仲良くするには時間が欲しいな、と思ってしまう。
まあ、1日私のことに気づかないくらい全然興味がないみたいだから、アーサー君は別に私と仲良くする気なんかないのかもしれないけど。
オグンが横で、アーサー君の言い方を窘めてくれているのが聞こえて、気を使わせてしまって申し訳ない気持ちになって、また少し、落ち込んだ。

「…オグン、私ひとりで大丈夫ですから。先に寮に帰りますね」
「リン!いやこいつな、勘違いされやすいけど悪いやつじゃ…」
「うん、悪い人なんて思ってないですよ。ただ、初日だから早く部屋に帰って荷解きとか終わってないのしなきゃなって思いまして」

「だからまた明日」と2人に笑顔を向けて、アーサーくんの横を通りぬけて、寮に続く方の廊下に向かった。

***

「はあ…明日オグンに謝らなくちゃ…」

校舎裏で、私の態度も悪かったと反省する。
せっかくたくさん気を使ってくれたのに、嫌な思いをさせてしまった。私がもっとちゃんと大人だったら、全然アーサー君の態度や言動を気にせずに、ちゃんと接することができたのかな。
思い出してため息をもう一度ついた時、「あ」という声が聞こえた。顔を上げてそちらを見た先には、懐かしい相手がいた。
ああ、やっぱり入学してたんだ。

「!シンラ…?」
「リン、なのか…?」

数年ぶりに顔を合わせたシンラは呆然とした顔をしていたが、私だと理解した瞬間、ぱぁ、と顔を輝かせ駆け寄って、私の両手を自分の両手でつかんだ。

「リン!久しぶりだな!引き取られたって聞いてたけど、元気だったのか?つーかなんで訓練校に!?」
「ま、まってください!シンラ!ひとつずつゆっくり話さないと話しきれないですよ」

数年前に研究所から引き取られた私のことを、ずっと心配していてくれたことが握られた手から力いっぱい伝わってくる。胸にたまって、もやもやとしていた気持ちも、再会の嬉しさに吹き消され、積もる話の中でも話せそうなことだけをシンラに伝えるべく、口を開いた。

next?


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